最新記事

映画

泥沼の離婚劇『マリッジ・ストーリー』にスター俳優2人が命を吹き込む

Superb Performances in Divorce Drama

2019年12月18日(水)16時40分
デーナ・スティーブンズ

だが『マリッジ・ストーリー』を見る限り、そこに至るまでの過程は平坦ではなかったようだ。チャーリーとニコールは、バームバックが「離婚産業」と呼ぶものに大きく翻弄されることになる。

もともとロサンゼルス出身のニコールは、ヘンリーを連れて母親と姉の家族がいる西海岸に戻り、テレビ界でキャリアを積もうと考える。一方、チャーリーは劇団のブロードウェイ公演が決まったこともあり、ニューヨークを離れるつもりはない。

2人は当初、さほど大きな共同財産もないとして、法的手段に訴えたりせず、友好的に離婚をまとめようとする。ところがひょんなことから、この分野でやり手の弁護士を雇うことになり、離婚協議はたちまち泥沼化していく。

なかでも激しい対立点となるのは、ヘンリーの親権問題だ。弁護士は依頼人を勝たせるために、相手が親として不適格であることを示す「証拠」を突き付ける。チャーリーとニコールは、自分が弁護士に語った内容が相手を傷つける形で次々と暴露されることに罪悪感を覚える一方で、互いに引くに引けなくなる。

子供の親権争いが焦点になる離婚劇というと、真っ先に思い出すのは1979年公開のアカデミー賞受賞作『クレイマー、クレイマー』だろう。メリル・ストリープ演じる母親は、夫と子供を置いて家を出るという「母親らしくない行動」を法廷で徹底的に責められる。

『マリッジ・ストーリー』では離婚の決定的な原因は明らかにされないが、どちらかといえば、チャーリーは妻の夢より自分の仕事を優先する自己中心的な夫として描かれる。

演技もルックスも圧倒的

とはいえ、ニコールが実家の温かい環境に落ち着くのに対して、チャーリーが息子の共同親権を勝ち取るためにロサンゼルスに通い、小さなアパートを借り、家庭調査官に好印象を与えようと奮闘する姿にはつい同情してしまう。

バームバックの細やかな脚本に命を吹き込んでいるのは、こうしたドライバーとヨハンソンの迫真の演技だ。

もちろん、2人のルックスが非常に魅力的なのは間違いない。何しろ『スター・ウォーズ』のカイロ・レンと、『アベンジャーズ』のブラック・ウィドウの夫婦だ。チャーリーとニコールがまだ同居していたとき、帰宅した2人を出迎えたベビーシッターが、「ワオ、あなたたちって本当にカッコいいカップルね」と口走るシーンがあるが、多くの観客も同感だろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:気候変動で加速する浸食被害、バングラ住民

ビジネス

アングル:「ハリー・ポッター」を見いだした編集者に

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 7
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中