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白人関係者がまとめ上げた「プリンス回顧録」に感動し切れない理由

A Memoir by Others

2019年11月23日(土)13時20分
カール・ウィルソン

1984年の大ヒット曲「ビートに抱かれて」で、父親は「要求が厳しく、大胆過ぎ」で、母は「何があっても満足しない」と歌っていたが、そのあたりはどうなのか。

プリンスは、母親の快楽主義的な奔放さ(1980年代の若きプリンスと重なる部分が多い)には、温かくも批判的な見方をしている。その一方で、父親の宗教的な厳格さや自立性、そして労働倫理(後年のプリンスに大きく重なる部分だ)には、はるかに大きな敬意を抱いていたようだ。

父親ジョン・ネルソンは工場労働者で、ナイトクラブでジャズピアノを弾くときは「プリンス・ロジャース」と名乗っていた。2人のプリンスは感情的な隔たりはあったが、音楽によって絆を深めた。

そんな両親の離婚は、プリンスの人生に大きな影響を与えたはずだが、この回顧録では事実関係を淡々と書くにとどめている。

当初は母親に引き取られたプリンスだが、母親が自分の嫌いな男と再婚することになると、父親の家に引っ越し、さらに叔母や知人の家を転々とした。その根無し草的な経験は、のちに彼が階級や人種の壁をやすやすと越える助けになると同時に、孤独のオーラをまとうきっかけになった。

白人ばかりでまとめたが

手書きメモ(とその書き起こし)の後は、映画『プリンス/パープル・レイン』の脚本のメモや、ミュージックビデオのストーリーボードなど、プリンスの死後に発掘された未公開品、そしてプリンスが生前に受けたインタビューの引用が収録されている。

パイペンブリングは40ページほどの序章で、回顧録プロジェクトがどのように始まったかを説明している。プリンスの自宅兼スタジオがあるペイズリーパークを初めて訪れたときのこと、数カ月にわたる断続的なミーティング、そしてプリンスの死──。

プリンスは、アートとビジネスの間に連続性を見いだしていたと、パイペンブリングは指摘している。10代の頃から自分のプロジェクトや音楽がどのように発表され、どのようにプロモートされるべきかについて、豊かな想像力を働かせていたというのだ。また、初のレコード契約のときから、プリンスは黒人アーティストとして、自分の作品の所有権や管理権を手放さないこと(音楽業界ではレコード会社に譲渡することが多い)を、人種平等の問題として極めて重視していたという。

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