最新記事

インタビュー

「撃たれやすい顔」を検知する「銃」──現代美術家・長谷川愛とは何者か

2019年8月14日(水)16時20分
Torus(トーラス)by ABEJA

警官から撃たれて亡くなった200人の犠牲者の顔データを集めてAIに学習させ、「撃たれやすい顔」を検知するモデルを「銃」につなげました。それに近い顔の人に銃を向けたとき、「あなたは、バイアスで反射的に殺そうとしているかもしれない」とアラートを出し、3秒間引き金をロックする。

それが"Alt Bias Gun"でした。

"あやまって殺す方も殺される方もうれしくない。この不幸を止めるためにこういった道具の導入は正しいのだろうか? どこで引き金を止めるのか? 引き金を止めずとも「バイアスで撃とうとしていませんか?」とアラートをだすだけでも、そこでもし効果的に死傷者の数が変わるのならばそれは公平なのだろうか?"(Ai Hasegawaより)


「正義」への問い直しが作品名を変えた

"Alt-Bias Gun"は初め"Anti-Bias Gun"と名付けていました。でもこのプロジェクトについて友人と議論してたとき「そもそも正しいバイアスってあるのか?という問いから始めないといけない」と指摘されました。「アンチ」の方がわかりやすくてキャッチーですが、「正義」は、ときに一方的で、全体主義のような事態を引き起こしてしまう可能性もあると思いました。「別の」バイアスを入れるという謙虚さが必要だと考え、"Alt-Bias Gun"にしました。

"Alt-Bias Gun"はまだ進化の過程にあるが、さらに考えを掘り下げていった結果、目指すべきは別の方向性だという。

殺される人の数を減らしたければ、そもそも銃のような、人を問答無用で殺傷する武器は作ったり使ったりしないようにすればいい。

もっと突き詰めれば、そもそも武器など必要のない社会を作ればいいというところにまで行き着きます。真に目指すべきはそちらの方向でしょう。だから、"Alt-Bias Gun"プロジェクトは未完成なのですが、私の中では答えが出てしまっているのです。

torus190814hasegawa-1-3.jpg

長谷川さんの作品は、見る人の心を揺さぶり、ザワつかせるものが多い。子ども時代に抱いていた思いが、表現の原点になっているという。

会社員の父と専業主婦の母、祖父と祖母、3人の姉弟の真ん中、という家庭に育ちました。幸せではあったけれど、田舎は基本的に保守的でしがらみも多い。しかも両親が保守的な宗教の信者で、不条理なことも言われ、生きづらさや苦しさを感じていました。

この息苦しさから解放されて自由になりたい。がんじがらめの状況で、のめり込んだのが、マンガやアニメ、SFの自由な世界観でした。高校時代にネットとつながると、画力向上を目指す漫画やアニメ好きが集う掲示板の常連になって、BL(ボーイズラブ)の漫画も描き始めました。いわゆる「腐女子」のオタクです。

同人活動をするくらい絵は好きだったのですが、周りを見て、自分には絵や漫画で食べていくほどの才能がないことは早々に自覚していたので、絵描きや漫画家になろうと思っていませんでした。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アルコア、第2四半期の受注は好調 関税の影響まだ見

ワールド

英シュローダー、第1四半期は98億ドル流出 中国合

ビジネス

見通し実現なら利上げ、米関税次第でシナリオは変化=

ビジネス

インタビュー:高付加価値なら米関税を克服可能、農水
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中