最新記事

BOOKS

時間が足りない現代に、「映画・ドラマ見放題」メディアが登場する意味

メディア(と、私たちのライフスタイル)の未来を考えさせる『ネットフリックスの時代』

2015年11月30日(月)16時01分
印南敦史(書評家、ライター)

ネットフリックスの時代――配信とスマホがテレビを変える』(西田宗千佳著、講談社現代新書)は、「利用し放題」のメディアの現状と将来を浮き彫りにした新書。タイトルにあるとおり、主軸となっているのは日本でもサービスがスタートした映像配信企業「ネットフリックス」だ。

 とはいえ、世界有数の映像配信事業者である同社だけを題材にしているわけではない。その内容は予想以上に幅広く、そして深い。まずはネットフリックスの革新性と衝撃について解説がなされるが、以後は、対抗する日本勢の現状、"テレビの見方"の変化、果ては音楽のストリーミングサービスまでを緻密に取材しているのである。

 そういう意味では、方式も利用法も急速に変化し続けるメディアそのもののあり方を広い視野でとらえた内容だといっていい。

 ところで無知をさらけ出すようで恥ずかしくはあるのだが、読む前に頭のなかにあった疑問は、「そもそも、なぜネットフリックスが注目されるのか」ということだった。成功したか否かはともかく、インターネットを利用して映像や音楽を配信するサービスならこれまでにもあった。それらとネットフリックスはどこが違うのだろうか?

 このような、シンプルにもほどがある疑問を予測するかのように、本書の書き出しにはまず、今年の出版界における最大のヒット作の話題が登場する。又吉直樹氏による芥川賞受賞作『火花』がそれだ。


受賞から1ヵ月程度で、発行部数は239万部を突破した。そして、やはり受賞発表から1ヵ月半というスピードで、映像化されることも発表された。だが、その発表先は、映画でもテレビドラマでもない。年初より「新たなる黒船」として報道されることの多かった、ある映像サービスで独占先行公開となる。(「はじめに」p3より)

 それがネットフリックスだというわけだ。なるほど、既存の映画などを垂れ流しにするだけでなく、オリジナルコンテンツも送り出していくということか。だとすればメディアとしての存在価値はたしかにあるわけで、個人的にはずいぶん合点がいった。

 ただ、このようにやや大げさに書かなければならないことには、私個人のライフスタイルの問題が絡んでもいる。つまり私は、もともとテレビをあまり見ないのだ。「嫌いだから見ない」わけではないし、好きな番組だってある。「Youは何しに日本へ?」とか、「鶴瓶の家族に乾杯」とか。

 けれど単純に、見る時間がないのだ。そうでなくとも見る番組は限定されているし、「利用したい」と思いながらも、時間が足りないものだからケーブルテレビのコンテンツさえ持て余している始末なのである。映画だって大好きなのだけれど、考えてみれば自宅で映画を見る機会もそれほど多くはない。毎年、「年末年始は映画を見まくるぞー」と思うだけで時間が過ぎていく......。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

インド株Nifty50、26年末までに12%の上昇

ワールド

ECB、1630億ドルのウクライナ融資支援を拒否=

ワールド

米ワシントンの州兵銃撃、1人が呼びかけに反応 なお

ビジネス

アングル:ウクライナ、グーグルと独自AIシステム開
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯終了、戦争で観光業打撃、福祉費用が削減へ
  • 2
    【クイズ】1位は北海道で圧倒的...日本で2番目に「カニの漁獲量」が多い県は?
  • 3
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 4
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 9
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 10
    600人超死亡、400万人超が被災...東南アジアの豪雨の…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中