最新記事
株の基礎知識

広がる「株主優待」廃止の動き、でも米国株より日本株が優位になる可能性も

2022年6月24日(金)10時20分
山下耕太郎 ※かぶまどより転載

NicolasMcComber-iStock.

<2022年になって、個人投資家に人気のある株主優待制度を廃止する企業が増える一方、自社株買いを実施する企業が増えている>

株主還元が変わる!

株主還元とは、企業が事業活動によって得た利益を株主に還元することをいいます。還元方法としては、増配(配当を増やすこと)や自社株買い、株主優待などがあります。

実は2022年になって、個人投資家に人気のある株主優待を廃止する動きが広がっています。オリックス<8591>のカタログギフトや日本たばこ産業(JT)<2914>の食品詰め合わせなどが最近の代表例です。

オリックスが100株以上保有する国内株主を対象に実施している優待制度は、オリックスの取引先が取り扱う日本全国の幅広い商品から選択できるため、個人投資家に好評でした。個人株主数は、この優待が導入される前の2014年3月末には約5万人でしたが、2022年3月末には約82万人にまで増えています。

しかし、2024年3月末に送付される分をもって、この株主優待を終了。今後は、配当等を通じて株主に利益を還元していく予定と発表しています。

JTも、2023年から優待制度を廃止します。2022年12月末時点で100株以上を1年以上保有している株主に自社の食料品を贈りますが、それが最後です。

■株主優待を廃止する企業が増えている理由

これまで、長期保有が見込める個人株主を増やすために、各社は株主優待の商品の選定に工夫を凝らしてきました。しかし、その恩恵を受けられない海外投資家からは「不平等だ」との声も出ていました。

そこで、株主への公平な利益還元のあり方という観点から株主優待制度を廃止し、今後は自社株買いや配当などによる利益還元を行っていく方針なのです。

また、2022年4月の東証の市場再編で、上場基準となる株主数が現在よりも緩和されたことも影響しています。東証1部に代わって誕生したプライム市場に必要な株主数は「800人以上」となり、以前の東証1部の「2,200人以上」から緩和されたのです。

つまり、これまで個人株主を確保するためのひとつの方策であった株主優待制度の必要性が薄れたのです。

増える自社株買い

株主優待制度を廃止する企業が増える一方、自社株買いを実施する企業が増えています。2022年5月25日時点で、720社以上の上場企業が自社株買いを発表しています。これは、昨年の自社株買い実施数の97%にすでに達しており、年間で最も多かった2019年(840社超)の記録を上回る勢いです。

そして、2022年4月から5月にかけての2か月間で企業が発表した2022年度の買い入れ枠は計4兆2000億円と、前年同期の約2倍となりました。日立製作所<6501>が8年ぶりに2,000億円規模の取得を決定するなど、大型の購入が目立ちます。

新型コロナウイルスの発生で落ち込んでいた業績が回復に向かい、危機の間に蓄えた資金を株主に還元する動きが出てきているのです。

(参考記事)自社株買いで株価はどうなる? 上がる株・下がる株の命運を分けるものとは

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税の影響で

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中