最新記事

コロナストレス 長期化への処方箋

リモートワークのストレスから社員を守れ──経営者が知っておくべき4つのポイント

SAVING EMPLOYEES

2020年8月20日(木)17時00分
ポーラ・カリジューリ(ノースイースタン大学特別教授)、ヘレン・デ・シエリ(モナーシュ大学教授)

ILLUSTRATION BY VISUAL GENERATION-SHUTTERSTOCK

<抱えている責任や住環境によって在宅勤務の負担は人それぞれ。従業員の健康維持のために企業が知っておくべきポイントとは? 本誌「コロナストレス 長期化への処方箋」特集より>

20200825issue_cover200.jpg新型コロナウイルスの感染拡大によって世界中で一気に普及した在宅ワーク。感染防止のメリットは大きいが、一方で社員の健康面に深刻なリスクを引き起こす恐れもある。

コロナ禍で初めてリモートワークを経験した人も多いなか、従業員の健康維持のために企業は何をすべきか。人事管理の研究者として企業の取り組みを調査してきた私たちは、社員の健康を守るために企業が知っておくべき4つのポイントをリストアップした。

1. 柔軟な働き方を認める

コロナ禍以前のアメリカで、日常的に在宅で働いていた人はわずか5%ほど。リモートワーク開始後の負担は、抱えている責任や住環境によって人それぞれだ。例えば学校や保育園が閉鎖された影響で、幼い子供の親たちは仕事と育児の両立に苦慮している。高齢者の介護をしている人も同様だ。

そこで重要になるのが、社員それぞれのニーズに対応する柔軟性だ。手始めに、部下と率直に対話する機会を設けるよう管理職に義務付けるべき。いつ、どんな形で働けるのかを確認し(ただしプライベートへの介入はNG)、締め切りに余裕を持たせる、育児に時間を回せるよう1日当たりの勤務時間を調整するなど幅広い選択肢を提示するといい。

その際に大切なのは、こうした指示を会社のトップが発すること。中間管理職の中には柔軟な勤務体系を快く思わない人もいるためだ。

また、通常のオフィス勤務が可能な地域でも、勤務時間を短縮する、1日の労働時間を延ばして勤務日数を減らす、休職を認めるといった柔軟な対応を提示する必要がある。

2. バーチャルな交流を推進する

在宅ワークに慣れていない人は社会から切り離された感覚に陥るもの。同僚との日々のやりとりや冷水器前でのおしゃべり、仕事後の一杯をオンラインで再現するのは容易ではないが、そうした交流が社員の健康に関係することは、さまざまな研究でも明らかになっている。

企業は社員に対し、オンラインでのコーヒータイムやランチ会、仕事後の飲み会などの機会を設けるよう働き掛けるべきだ。

3. 社員間のコミュニケーションをサポートする

ビデオカメラやチャットアプリなど適切なツールがあれば、リモートワークは順調に進むと考えがちだが、そう簡単な話ではない。コミュニケーションの方法やIT機器の使い方に関する好みが食い違い、衝突の種となる場合もある。

メールを好む人もいれば、Slack(スラック)のようなチャットツールですぐに返信したい人、さらには昔ながらの電話が一番という人もいる。私たちの研究でも、ストレスの強い時期には特に、リモートワークによってこうした問題が一段と深刻化することが分かっている。

企業としてできるのは、オンラインでの効果的な働き方に関する会合をウェブ上で開催すること。その際、ITツールに関する全体ルールを上司が提示し、コミュニケーションをめぐる個人間や文化間の違いへの意識を高めるよう働き掛けるといい。

4. 前向きなストレス対処法を提供する

コロナ禍による不安やストレスの高まりは、深刻な事態を引き起こしかねない。人は新たなストレスにさまざまな方法で対処しようとするが、なかにはアルコール摂取の増加といった不健康なものもある。

現状では社会活動やスポーツクラブへの参加支援といった平時のような福利厚生を提供するのは難しいが、代替となるアプリやウェブサイトから厳選したサービスを紹介し、その費用を企業が負担すべきだ。例えば、目の前のことだけに集中するマインドフルネスのトレーニングは、看護師のようなストレスの高い職種を含む従業員のメンタルヘルスの改善に有効であることが分かっている。

健康リスクと予防法、そして提供可能な支援策について従業員に明確な情報を伝え続けること──それこそがコロナ時代の経営者に求められる社員防衛術だ。

The Conversation

Paula Caligiuri, Distinguished Professor of International Business and Strategy, Northeastern University and Helen De Cieri, Professor of Management, Monash University

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

<本誌2020年8月25日号「コロナストレス 長期化への処方箋」特集より>

【関連記事】ズーム疲れ、なぜ? 脳に負荷、面接やセミナーにも悪影響
【関連記事】頭が痛いコロナ休校、でも親は「先生役」をしなくていい

20200825issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年8月25日号(8月18日発売)は「コロナストレス 長期化への処方箋」特集。仕事・育児・学習・睡眠......。コロナ禍の長期化で拡大するメンタルヘルス危機。世界と日本の処方箋は? 日本独自のコロナ鬱も取り上げる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米財務長官、複数住宅を同時に「主たる住居」と申告=

ワールド

欧州委、イスラエルとの貿易協定停止を提案 ガザ侵攻

ビジネス

カナダ中銀、0.25%利下げ 政策金利は3年ぶりの

ビジネス

米一戸建て住宅着工、8月は7%減の89万戸 許可件
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 4
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    「アフリカでビジネスをする」の理想と現実...国際協…
  • 10
    「60代でも働き盛り」 社員の健康に資する常備型社…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中