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社会人教授が急増しているのはなぜか──転換期の大学教育

2019年2月28日(木)11時35分
松野 弘(社会学者、大学未来総合研究所所長)

大学教授は社会的地位が高いのに「資格」不要な職業

すでに述べたように、大学教授は他の職業に比べて、社会的期待値の高い職業の1つと言われている。資料はやや古いが、「1995年版職業威信スコア表」によれば、「大学教授」は「医師・歯科医師」「裁判官・検察官・弁護士」に次いで3位となっている(職業威信スコア調査としては最新の資料である、1995年SSM全国調査)。

社会的地位の高い職業とは、言うまでもなく「誰でもなれるもの」ではない。例えば、医師の場合には、一般的に難関とされる医学部を卒業し、医師の国家資格を取らなければならない。裁判官や弁護士は、最難関の国家試験として名高い司法試験に合格することが求められる。このような難易度の高い「資格」が求められるために、必然的にその職に就ける人数も限られたものとなる。

それでは、大学教授の場合はどうか。大学教授の場合、一般的には、大学の学部を卒業後、大学院(修士課程[博士前期課程]・博士後期課程)を修了して、研究者としてのスタートラインに立ち、大学の非常勤講師や任期制の研究員等の経験と学問的業績を重ねて、運がよければ、公募や推薦によって、大学の専任職(専任講師や専任研究員等)に就くことができる。

このように、大学教員になるためには、本来であれば、研究者としての専門的な学術的知識や研究業績が一定の基準のもとでの成果が求められるし、また、教育者としての教授能力も必要となってくる。

しかし、医師や弁護士・裁判官等とは異なり、日本の大学教授には法的な資格要件が何も存在しない。特定の大学や学部を卒業する必要もなく、資格試験もない。大学院博士後期課程を修了した者に与えられる「博士号」がなくても、それ相当の教育・研究上の業績があり、大学側の採用基準に合致していれば、誰でも大学教員になることが可能だ。

加えて、前述のように、大学設置基準の改正(緩和)によって、実務的な知識や経験がこれまで以上に「大学教授の資格」として認められることになったために、社会人教授の大量採用への道が開かれたのである。そのため「大学教授は誰でもなれる」という誤った認識が広まることとなった。

鷲田小彌太の『大学教授になる方法』(青弓社)が1990年代前半に一時期話題となった背景にも、このようなわが国特有の事情がみて取れる。この誤った風潮によって、一部の私立大学では「大学の広告塔」として有名タレントを「社会人教授」として招聘したり、マスコミ関係者や国家公務員が定年後の仕事として大学に天下ったりする傾向が近年、数多くみられるのである。

実際、サラリーマンが大学院に進学し、修士課程(もしくは、博士前期課程)を修了しただけで大学教員になるケースが増えてきており、そのような個人的体験をもとにした、読み物としての「大学教授になる方法」とする実践的な本が数多く刊行されるに至っている。

その多くでは、自らの社会人時代の職業経験や大学院に入るための方法、大学院時代の勉強の仕方等が記述されている。しかし、個人的体験による記述(=特殊事例)はその人にのみ適応できる事例が多く、大学教授になるための普遍的な方法としては必ずしも参考になるとは言えない。

筆者は2010年に刊行した『大学教授の資格』(NTT出版)において、大学教授の歴史的経緯や西欧の大学との比較を通じて、わが国の大学教授の現状、特に社会人教授を取り巻く実情と問題点を指摘し、大学のあるべき姿と、社会的経験と学問的成果を融合した「新しい大学知性人」(ネオ・アカデミクス)としての社会人教授に求められる役割を述べた。

この『大学教授の資格』の実践編として、このたび『講座 社会人教授入門――方法と戦略』(ミネルヴァ書房、2019年2月)を書いた。社会人が大学教員(教授、准教授、専任講師)になるための適性を、大学教員としての、①人生設計、②方法論、③戦略論、等の現実的視点から捉え、そうした適性と戦略を多角的に提供し、社会経験と学問的実績とを持った、最強の社会人教授を生み出す手引きにしたいと考えている。

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