最新記事

日銀

「ポスト黒田」に「植田新総裁」が望ましい訳──世界最高の経済学を学んだ男の正体

The Unexpected Man

2023年2月22日(水)15時30分
浜田宏一(米エール大学名誉教授、元内閣官房参与)

従来の日本社会の通例では、議論の時には反対しても採決の時には決定に賛成するという考え方がある。藤原作弥副総裁からの植田委員に対する決定を考え直してほしいという働きかけが、議事録では「勧誘」という言葉で記録されている。いかにも日本的な状況ではあるが、今の時点から見ると、中原、植田両氏の意見が採用されていれば、日本経済の落ち込みはより少なく済んだだろうと推測される。

自分が熟考したことは表明させてほしいという植田委員と、それを全面的に支持する中原委員の言葉が生々しく議事録から伝わってくる。いつもは穏やかな植田氏のバックボーンがよく表れており、これがこれから日銀総裁として最も大事な資質だと思う。

現状維持か「伝統」復活か

さて、植田氏の新総裁就任が国会で承認されたとき、その金融政策はどのような形となるであろうか。

1998年に新日本銀行法が施行され、政策委員会が最高意思決定機関として明確に位置付けられた。法改正の眼目は中央銀行の独立性を日銀に与えることだった。本来、経済政策の目標を決定するのは政府であり、政策手段の決定の独立性が日銀に与えられるはずであったが、日銀は目標も決められると解釈し──金融緩和に理解のあった福井俊彦元総裁を除くと──法改正後の速水総裁は金融引き締めを優先させる政策を取った。90年前後のバブル経済を終わらせることは確かに必要だったが、それにしても引き締めが長続きしすぎた。

そして08年にリーマン危機が発生し、危機下の諸外国がなりふり構わずの金融緩和を行ったにもかかわらず、金融危機そのものが起きなかった日本では、産業界が円高に苦しまされた。

「アベノミクス第1の矢」の金融緩和政策を具体的に遂行した黒田総裁は、円高にすぎる政策からの脱却で日本経済を救った。その結果、第2次安倍内閣が発足した12年末から新型コロナウイルスが日本を襲う直前の19年半ばまでに、総務省によると日本の勤労人口が約500万人(東京ドームの収容人員の約100倍に当たる)増加したのである。

短期金利がゼロになっているため、異次元緩和の主たる手段は国債の日銀買い入れによって行われたが、16年には政策手段が短期金利の調整からイールドカーブ調整(長短金利操作)へと変更された。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

元、対通貨バスケットで4年半ぶり安値 基準値は11

ビジネス

大企業の業況感は小動き、米関税の影響限定的=6月日

ワールド

NZ企業信頼感、第2四半期は改善 需要状況に格差=

ビジネス

米ホーム・デポ、特殊建材卸売りのGMSを43億ドル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 4
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中