最新記事

日本企業

もがくソフトバンク孫正義 「コロナの谷」にユニコーン転落 

2020年5月22日(金)11時12分

ソフトバンクグループの孫正義会長のプレゼンテーションは、数字とグラフばかりの資料を用いる日本企業的スタイルとは異なる。どちらかと言えば、米アップルの共同創業者スティーブ・ジョブズ氏のやり方に近い。写真は会見する孫会長。2018年、東京で撮影(2020年 ロイター/Issei Kato)

神妙な面持ちで18日の決算会見に臨んだソフトバンクグループ<9984.T>の孫正義会長は、1兆4000億円という過去最大の最終赤字を印象的なスライドで総括した。「コロナの谷」に転落する一角獣(ユニコーン)を描いたイラストだ。

孫会長のプレゼンテーションは、数字とグラフばかりの資料を用いる日本企業的スタイルとは異なる。どちらかと言えば、米アップルの共同創業者スティーブ・ジョブズ氏のやり方に近い。

ときに聴く者の笑いを誘うプレゼンテーションの中で映し出されるスライドは、フリーキャッシュフローや配当を説明する図表を織り交ぜながら、この事業家の信条をうまく表現している。

例えば、金の卵を産むガチョウを描いたスライド。耐え忍んだ者には報いがあることを表現している。そして孫会長は、豆腐を100丁、200丁と大量生産するかのごとく、企業価値を100兆(円)、200兆(円)と増やしていきたいと語る。

「日本企業のトップのコミュニケーション手法としては異例だ」と、PRコンサルタントとして経営者にアドバイスをするボブ・ピッカード氏は語る。孫氏のようなやり方はマスコミに大きく取り上げられやすく、ソーシャルメディアでも話題になりやすいという。

さきごろツイッターを再開した孫会長は「失敗の原因は外部ではなく全て己れにある。それを認めなければ前進はない」と投稿した。それでも孫氏流のプレゼンテーションは、自身のアイデアを広く訴え、前進させる上で重要な手段であることに変わりない。

決算会見で使ったスライドの中には、有望な未上場のベンチャー企業を意味する色とりどりのユニコーンが駆け上がっていく様子が描かれているものもあった。

テクノロジーに対するユートピア的理念を伝えるために、孫会長が用いるのはスライドだけではない。「情報革命で人々を幸せに」という、日本企業が好んで使う経営スローガンも掲げている。

しかし、孫会長の理想は、新型コロナウイルスが世界経済とソフトバンクの出資企業を直撃したことで、厳しい現実に直面している。

孫会長は18日の決算会見で、翼を広げたユニコーンが「コロナの谷」から飛んでいくスライドも披露した。小さな文字で免責事項が書かれたプレゼンテーション資料の物語は、単純すぎるきらいがあると、ピッカード氏は指摘する。

「孫会長の言うことが真剣に受け止めてもらえず、風刺画にされてしまうリスクがある」と、ピッカードは語る。


Sam Nussey

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【関連記事】
・新型コロナよりはるかに厄介なブラジル大統領
・ワクチンができてもパンデミックが終わらない理由
・緊急事態宣言、京都・大阪・兵庫を解除 東京など5都道県も専門家が25日に評価し解除可能に=安倍首相
・コロナ独自路線のスウェーデン、死者3000人突破に当局の科学者「恐ろしい」


20200526issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年5月26日号(5月19日発売)は「コロナ特効薬を探せ」特集。世界で30万人の命を奪った新型コロナウイルス。この闘いを制する治療薬とワクチン開発の最前線をルポ。 PLUS レムデジビル、アビガン、カレトラ......コロナに効く既存薬は?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、経済政策が中間選挙勝利につながるか確信

ビジネス

雇用統計やCPIに注目、年末控えボラティリティー上

ワールド

米ブラウン大学で銃撃、2人死亡・9人負傷 容疑者逃

ワールド

シリアで米兵ら3人死亡、ISの攻撃か トランプ氏が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 5
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 6
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 7
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 8
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 9
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 10
    「体が資本」を企業文化に──100年企業・尾崎建設が挑…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中