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新型コロナウイルス

ワクチンができてもパンデミックが終わらない理由

How “Vaccine Nationalism” Threatens the Global War Against COVID-19

2020年5月21日(木)18時10分
デービッド・ブレナン

COVID-19を封じ込めるには世界同時にワクチン接種を推進する必要がある Arnd Wiegmann-REUTERS

<他国より先にワクチンを手に入れようと画策する自国第一主義は、新型コロナウイルスの思う壺>

新型コロナウイルスとの戦いでは、現在100を超えるワクチンの臨床試験が始まっている。これほどの規模で研究開発が進むのは前代未聞のことで、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が経済と社会に及ぼした混乱の大きさを物語る。

ワクチン実用化の時期はまだ見通せない。多くの専門家は開発には1年半掛かるとみているが、来年初めには接種を開始できるとの見方もある。

ジョンズ・ホプキンズ大学の集計によれば、5月21日時点で世界の感染者は約494万人、死者は約32万人に上る。検査数が少ないことや、感染者数を過小評価しようとする国もあることなどから、実際は感染者、死者ともこれをはるかに上回るとみられる。

国境封鎖を解除し、壊滅的な打撃を受けた経済を再生させるには、各国が協力してパンデミックを抑え込む必要がある。だが実際には各国とも、ワクチンが開発されたら我先に必要量を確保しようと有望な研究に資金を提供し、「優先的な供給」を約束させるなど、なりふり構わぬ争奪戦を繰り広げている。

公平な接種が大原則

「どこかの国が公然と、あるいは密かに、ワクチンを独占しようとするのではないか」と、多くの専門家は懸念していると、コンサルティング会社ユーラシア・グループの世界保健部門を率いるスコット・ローゼンスタインは本誌に明かした。

防護服やマスクなど個人防護具でも、多くの国々が輸出規制をかけ、国が高値で買い付けを行うなど、各国のエゴをむきだしになった。

ワクチン争奪戦は、2009年の新型インフルエンザの流行の時にも起きた。オーストラリア政府は、自国の製薬大手CSLに対し360万回分のワクチンの対米輸出を差し止めた。

「当時は、ワクチンができたときには感染拡大が収まっていたこともあり、そうした動きは大して問題にならなかったが、今回は状況が異なる」と、ローゼンスタインは言う。

今年3月には、ドイツのバイオベンチャー・キュアバックが開発するワクチンを独占しようと、ドナルド・トランプ米大統領が「多額の資金」提供を申し出たと報道された。

5月中旬にはフランスの製薬大手サノフィのCEOが、ワクチン開発に成功したらアメリカに優先的に供給すると発言して物議をかもしたばかり。エドゥアール・フィリップ仏首相がワクチンの公平な接種は「曲げられない原則だ」と述べ、サノフィの会長がCEOの発言を慌てて打ち消した。

<参考記事>反ワクチン派がフェイスブック上での議論で優勢となっている理由が明らかに
<参考記事>トランプ、ドイツ社のワクチン独占を画策?

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