最新記事

ニュースデータ

「会社辞めます!」の、その理由

2015年9月15日(火)16時20分
舞田敏彦(教育社会学者)

 もちろん男女の違いもある。日本は男女別のジェンダー規範意識が強い社会だが、それは労働者の離職理由にも表れている。男性と女性で分けて、先程と同じグラフをつくってみた<図2>。

maita150914-chart2.jpg

 やはり生産年齢の離職理由の内訳は、男女でかなり異なっている。男性では低収入や劣悪な労働条件が多く、女性では結婚、出産、育児といった家族に関連する理由が多くなっている。中高年期における介護離職も、男性に比べて多い。本当は仕事を続けたいと思いながら、育児や介護との両立が困難なためにやむなく離職する女性が少なくないことが窺える。

 20代後半から30代前半の結婚・出産期にかけて、女性の正規職員数は大きく減少する。2007年の20代後半の女性正社員数は164万人、2012年の30代前半は132万人。2割近く減っている。医師のような高度専門職では減少幅はもっと大きく、1万1500人から6200人へとほぼ半減している。それだけ女性の能力が社会で活用されていないということだ。

 保育所の整備などによって育児中の女性が働きやすい環境が整っている北欧などの国々では、このグラフはまったく違ったものになっているはずだ。労働者の離職理由から、その社会が抱える問題が浮き彫りになってくる。上の2つのグラフで痛々しく可視化されているのは、劣悪な労働条件で働く若者、そして出産、育児、介護によって離職を迫られる女性の問題だ。

 ブラック企業の撲滅や、保育所の待機児童の解消など、現在こうした社会問題を解決するための取り組みが政策として進められている。それがどこまでの成果を上げられるか、近い将来このグラフがどう変化するかによって測ることができる。

<資料:総務省『就業構造基本調査』(2012年)

[筆者の舞田敏彦氏は武蔵野大学講師(教育学)。公式ブログは「データえっせい」、近著に『教育の使命と実態 データから見た教育社会学試論』(武蔵野大学出版会)。]

≪この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中