最新記事

東南アジア

シンガポールが外国人労働者を排斥へ

タクシー運転手から企業幹部まで経済成長を外国人に頼ってきた国に芽生えた不満とジレンマ

2013年9月18日(水)16時21分
トム・ブエノ

使い捨て? シンガポールの成長を支えてきたのは外国人だが Tim Chong-Reuters

 絶好調な経済を誇るシンガポール。6月末の失業率はわずか2.1%で、1人当たり所得は主要国の中で最高レベル、GDPは世界で39位だった。しかし実際は、かなりの国民が不満や憤りを感じているようだ。

 与党・人民行動党(PAP)は65年の建国以来、長期政権を維持している。2年前の総選挙でも勝利したが、得票率は過去最低を記録した。「PAPは、まるで会社みたいにシンガポールを動かしている。いろんな国から外国人を連れてきて、私たちの仕事をやらせようとしている」と、タクシー運転手は不満を口にする。

 運転手の懸念は見当違いなように見えて、今のシンガポールの状況と合致している。政府の発表によると、11年に創出された雇用12万2600人のうち、8万4800人は外国人専門職だった。シンガポールには146万人の外国人がおり、人口の25%以上を占める。

 近いうちにPAPが政権を失う、と本気で考えている専門家はいない。しかし、次の総選挙で得票率はさらに下がるだろうという見方が圧倒的だ。

 PAPはそうした声にすぐさま反応し、外国人労働者に対する規制を強化。雇用主が限定されない個人就労許可証(PEP)は、以前は年収3万4000シンガポールドル以上あれば申請できたが、昨年末から年収14万4000シンガポールドルに上がった。

 一般事務など中技能労働者向けの就労ビザ「Sパス」の取得も難しくなっている。かつてはSパス保持者の雇用枠は従業員の25%だったが、今では20%になっており、さらに今年7月に15%に引き下げられた。

 こうした新規制の導入に、多国籍企業の経営陣は不満を募らせている。シンガポール政府が教育に多額の投資をしているのは確かだが、企業にとっては一部の職、特に幹部に適した有望なシンガポール人を見つけるのは今も非常に難しいからだ。社会保障制度によって、シンガポール人労働者の人件費も大幅に増えている。

 マラリアが蔓延する漁村から、アジアで最も富裕な国の1つになったシンガポールの成長と繁栄を支えたのは、外国人労働者と外国資本だ。PAPの政策が、次の総選挙やシンガポールの経済成長にどれほど影響するかは分からない。だが少なくとも、有権者には歓迎されていないようだ。

From thediplomat.com

[2013年8月20日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

エルサルバドルへの誤送還問題、トランプ氏「協議して

ワールド

米民間セクター代表団、グリーンランドを今週訪問 投

ビジネス

伊プラダ第1四半期売上高は予想超え、ミュウミュウ部

ワールド

ロシア、貿易戦争想定の経済予測を初公表 25年成長
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中