最新記事

日本経済

日本の没落から学ぶべき真の教訓

巨額の財政赤字や超低金利もほとんど役に立たなかったのはデフレのせい、という常識は間違っている。

2011年1月28日(金)13時27分
ロバート・サミュエルソン(本誌経済担当コラムニスト)

司令塔不在 日本国債格下げにも「疎い」首相と政府に再生シナリオは描けるか(1月24日) Issei Kato-Reuters

 今では思い出すのも困難だが、日本は80年代、世界で最も尊敬される経済大国だった。日本人の生活水準はいずれ世界一のレベルに達し、技術革新でも世界をリードしていくだろうと誰もが思った。

 だがいま聞こえてくるのは、経済成長が止まった「失われた10年」の二の舞いになるなという警告ばかり。日本の主な過ちは「景気刺激策」を小出しにし、デフレを招いたこと。消費者は将来は価格が下がるという期待から、買い物を控えるようになってしまった──今や一般常識と化した説明だが、これは誤っている。

 日本経済の没落が示しているのは、景気刺激策の効果には限界があるということ。デフレの悪影響も、少なくとも穏やかな物価下落に関する限り、誇張され過ぎている。景気浮揚のためには民間の雇用創出や投資に代わる策はなく、日本にはそれが欠けている。それが、われわれの学ぶべき教訓だ。

 日本の問題は、アメリカと同じく巨大な資産バブルから始まった。85〜89年の間に株価は3倍になった。主要都市の地価も91年までに3倍になった。

 崩壊もまた劇的だった。89年末に最高値を付けた株価は、92年末までに57%下落した。地価は92年に暴落し、今も80年代前半の水準だ。富は減少し、過大評価の土地を担保に融資をしていた銀行は傾き、いくつかは破綻した。90年代の経済成長は年率約1%で、80年代の4%超から大幅に下落した。

 大規模な景気刺激策にもかかわらず、20年たった今も成長は戻っていない。日本の対応は遅かったが、教科書どおりの処方箋に従った。財政支出を拡大し、減税し、財政赤字が膨張するに任せた。政府債務の対GDP(国内総生産)比は91年の63%が97年には101%まで上昇。今は約200%に達している。日本銀行は利下げを繰り返し、99年にはゼロ金利を採用。中断もあったが今も続いている。

景気刺激策だけで成長は得られない

 デフレでは、この経済停滞を説明できない。日本の消費者物価指数が下落した年は過去20年で9回ある。年平均の下落率は0.6%だ。「1年で価格が0.6%下がるからといって、車を買うのを延期する人はいない」と、日本経済に詳しいニューヨーク大学経営大学院のエドワード・リンカーン教授は言う。もし日本人が本当に消費を先延ばしにしたのなら、家計貯蓄率は上がったはずだ。だが実際の貯蓄率は、91〜08年の間に可処分所得の15.1%から2.3%に減少している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ステーブルコイン、決済手段となるには当局の監督必要

ワールド

ガザ支援船団、イスラエル封鎖海域付近で船籍不明船が

ビジネス

ECB、資本バッファー削減提案へ 小規模行向け規制

ビジネス

アングル:自民総裁選、調和重視でも日本株動意の可能
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 2
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけではない...領空侵犯した意外な国とその目的は?
  • 3
    【クイズ】身長272cm...人類史上、最も身長の高かった男性は「どこの国」出身?
  • 4
    なぜ腕には脂肪がつきやすい? 専門家が教える、引…
  • 5
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 6
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 7
    通勤費が高すぎて...「棺桶のような場所」で寝泊まり…
  • 8
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 9
    10代女子を襲う「トンデモ性知識」の波...15歳を装っ…
  • 10
    アメリカの対中大豆輸出「ゼロ」の衝撃 ──トランプ一…
  • 1
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...「文学界の異変」が起きた本当の理由
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 8
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 9
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 10
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中