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タイの「激烈」栄養ドリンクがやってくる

世界一の栄養ドリンク大国でトップシェアの「M-150」が、やばい効き目を引っ提げて海外に進出

2010年9月16日(木)18時28分
パトリック・ウィン

病みつき M-150は1日1本ならハイになり、4本飲むと気持ち悪くなるという(写真はライバルのレッド・ブル) Sukree Sukplang-Reuters

 モンコン・カエガンは疲労困憊していた。バンコクのビジネス街の歩道で、22歳の華奢な若者は青いオートバイにぐったり寄りかかっていた。

「ビッグ」というニックネームで呼ばれるモンコンは、交通渋滞で立ち往生する人々を三輪タクシー「トゥクトゥク」で運んで日銭を稼いでいる。7時間の勤務時間中には、動かない車列に阻まれ、ブーンというエンジン音に誘われて眠くなる瞬間がある。タバコの箱はとっくに空っぽだ。

 モンコンは午後の決まった時間に毎日、近くのセブンイレブンに立ち寄り、タイ式栄養ドリンク「M-150」を一本買って、5口で一気に飲み干す。間もなく始まる夕方のラッシュアワーの渋滞をかいくぐって走るには、寝ぼけてはいられないのだ。

「これを飲めば眠気が吹っ飛ぶ」と、彼は言う。「すごいんだ。トゥクトゥク仲間は皆、やみつきだ」

 タイは世界一の栄養ドリンク大国。イギリスの市場調査会社ゼニス・インターナショナルによれば、大人1人あたりの年間消費量は平均10リットル以上で、アメリカ人の4倍にあたるという。

 タイの栄養ドリンクは一本30円弱と低価格で、カフェイン入り。約150ccのガラスのボトルには空飛ぶトラや水牛の頭蓋骨の絵が描かれており、「シャーク」「マグナム.357」、タイ語で「力」を意味する「ラエング」など強靭な男を連想させる商品名が付けられている。ほとんどの商品は非炭酸で、グミを溶かしたような人工的な甘みが強い。

長時間労働を飲んで乗り切る

 だが目下のところ、栄養ドリンク界のチャンピオンはM-150。爆竹や突撃ライフルを連想させるマッチョなネーミングだ。地元バンコクの飲料メーカー、オソサパの商品で、推定5億ドルというタイの栄養ドリンク市場の65%以上のシェアを占める。同社はヨーロッパや中東、そして世界最大の栄養ドリンク市場であるアメリカへの進出も進めている。
 
 M-150がシェアを独占するにつれて、タイの栄養ドリンクの元祖「レッド・ブル(赤い雄牛)」との間に熾烈な戦いが勃発した。バンコクのTC薬品が1962年に発売したレッド・ブルは、オーストリア人投資家の支援を得て世界各地に進出。2004年という最近でさえ、タイの栄養ドリンク市場の半分のシェアを維持していた。

 そこへ登場したM-150は、労働者階級の男性にターゲットを絞り、積極的にPRに展開(キャッチフレーズは「情熱! 勇気! 犠牲!」)。栄養ドリンクで長時間労働を乗り切るお国柄のタイでは、男性労働者の支持を得ることがヒットのカギとなる。

「栄養ドリンクの人気は残業時間の増加に比例して高まってきた」と、タイの栄養ドリンク消費を調べたマヒドン大学(バンコク)の調査報告書にも書かれている。「タイは高度な経済成長を遂げてきたが、労働者、とりわけ建設業界の作業員の収入は、上昇し続ける生活費に追いついていない」

 調査対象となった労働者たちは、栄養ドリンクを飲むことで長時間働き、残業代を稼げるのだという。実際、ある建設現場の作業員は、月に160本という有害な量の栄養ドリンクを飲んでいた。

「眠気を感じないから永遠に働ける」と、学業の傍ら、家業の米店手伝っている20歳のビチト・シングソームは言う。彼はM-150を毎日2本飲む。ボトルに「1日2本まで」という警告が書かれているからだ。
 
 ビチトは数年前、同僚を通じてM-150を知った。「友達は1日3本飲んでいた。ボトルを抱いて寝るくらい病みつきだった」と、ビチトは言う。「『身体が震えない?』と尋ねると、あいつは手を出さないほうがいいと言った。でも、今じゃ俺も同じだ。完全にハマったよ」

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