コラム

UNRWAに今こそ求められる「タブーなき議論」...イスラエル社会に送った「誤ったメッセージ」とは?

2025年02月27日(木)12時20分

国連の内部調査は職員9人が攻撃に関わった疑いがあると結論付けた。それが全職員3万人のうちの9人であっても、中立原則を著しく損なったことに疑いの余地はない。

中立原則を維持するために多くの取り組みを行ってきたことは国連の独立調査でも報告されているが、実際に職員がテロに関わった疑いがあるのであれば、トップのフィリップ・ラザリーニ事務局長の責任は免れない。これが民間企業であれば、即座に辞任を求められるだろう。


ラザリーニが「責任」を取っていたとしたら、イスラエル国内の文脈では別の意味を持った可能性もある。

イスラエルでは10月7日の責任問題が焦点となり、軍参謀総長らが辞任表明する一方で、ネタニヤフ首相は自身の責任には触れず、調査委員会の設置にも反対した。結果的に両トップとも自らの責任の所在を曖昧にした形となったのだ。

もしラザリーニが辞任していれば、トップの座に居座り続けるネタニヤフとの対比が鮮明になり、イスラエル社会が強めたUNRWAへの猜疑心と敵対心を和らげるようなメッセージを送ることができたかもしれない、と指摘するイスラエル市民もいる。

パレスチナ、ヨルダン、レバノン、シリアにまたがるパレスチナ難民に教育や医療といった最低限のニーズが提供されるのであれば、必ずしもUNRWAである必要はないが、現状では代替する組織は見当たらない。

一方、設立から75年以上が経過し、職業機会の提供といったマンデート(任務)が時代にそぐわなくなった側面もある。占領者として国際法的な義務を持つイスラエルの責任と負担を軽減させているだけでなく、パレスチナの自立をも損なっているとしてUNRWAに対して批判的なパレスチナ人も少なくない。

プロフィール

曽我太一

ジャーナリスト。東京外国語大学大学院修了後、NHK入局。札幌放送局などを経て、報道局国際部で移民・難民政策、欧州情勢などを担当し、2020年からエルサレム支局長として和平問題やテック業界を取材。ロシア・ウクライナ戦争では現地入りした。2023年末よりフリーランスに。中東を拠点に取材活動を行なっている。

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