コラム

「習近平版文化大革命」の発動が宣言された――と信じるべきこれだけの理由

2021年08月31日(火)18時12分

明確にして堂々とした「革命宣言」の登場

以上が文化・政治・経済の各分野における習政権の極端な政策と政治行動だが、これだけではない。9月1日からは大都会の上海で英語のテストが禁じられるのと同時に、「習近平思想」が学校教育の必修科目となる。

一連の出来事の全ては毛沢東時代、とりわけ文化大革命時代への回帰の予兆ではないか――。このような危惧が国内外で広がっている最中、まさに習近平版文化大革命の発動を宣言したかのように見える新たな文章が登場した。

「誰でも感じ取れる、深刻な変革は今進行している最中だ!」と題するこの文章は、ソーシャルメディアの微信(ウェイシン)で「李光満」の名前で文筆活動をしている人物の手によるものだ。当初は「李光満氷点時評」という個人ブログに掲載されていた。

そして8月29日、共産党機関紙の人民日報や国営新華社通信、中央軍事委員会機関紙の解放軍報、CCTV、中国青年報、中国新聞社などの主要政府系メディアが一斉に、この文章を各自の公式サイトで転載した。

人民日報や新華社通信、解放軍報が一民間人のブロガーの文章を一斉に転載するのは前代未聞の出来事のことである。それは共産党中央宣伝部からの、あるいはそのさらに上層部からの命令に違いない。そして、習近平による個人独裁体制が確立されている今の政治状況下では、この文章の転載命令はやはり、習自身によって出されたか、習の意向を受けて出されたかのどちらかであると思う以外にない。

それでは、この衝撃文章の中身は何か。文章は冒頭から、まずは中国の芸能界・文化界を槍玉にあげて、「芸能界・文化界全体はすでに腐りきっている」との激しい表現で断罪。そして本稿も取り上げている3人の芸能人たちの「罪状」を詳しく羅列した上で彼らに対する追放を称賛した。

それに続いて、文章は高暁松を厳しく批判した後、矛先をアリババや滴滴出行など民間企業に向けて批判を展開。そして、それに関連して習政権の「共同富裕路線」にも言及した。これら一連の出来事を取り上げた上で、文章は興奮気味の口調でこう書いている。

「(この一連の動きは全部)われわれに告げようとしている。中国では大きな変化が起きているのだ。経済領域から金融領域、そして文化領域から政治領域において深刻な変革が発生している。それは深刻な革命とも言うべきだ。それは資本集団からの人民群衆への回帰であり、資本中心から人民中心への回帰である。従ってそれは政治的変革であり、人民は再び変革の主体となっている。人民を中心とするこの革命を阻止する者は全部切り捨てられよう。この変革は回帰だ。中国共産党の初心への回帰、人民中心への回帰、そして社会主義の本質への回帰だ」と。

筆者はこの文章を読んで強く感じた。人民日報、新華社通信から解放軍報までの共産党の中枢宣伝機関が一斉に転載したこの文章は、明確にしてかつ堂々と「革命宣言」を行っている。

プロフィール

石平

(せき・へい)
評論家。1962年、中国・四川省生まれ。北京大学哲学科卒。88年に留学のため来日後、天安門事件が発生。神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。07年末に日本国籍取得。『なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか』(PHP新書)で第23回山本七平賞受賞。主に中国政治・経済や日本外交について論じている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請件数、1.6万件減の19.9万件

ビジネス

医薬品メーカー、米国で350品目値上げ トランプ氏

ビジネス

中国、人民元バスケットのウエート調整 円に代わりウ

ワールド

台湾は31日も警戒態勢維持、中国大規模演習終了を発
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 5
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 8
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 9
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 10
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story