コラム

「習vs.李の権力闘争という夢物語」の夢物語

2020年09月24日(木)10時00分

習近平と李克強の「権力闘争」を論じることは中国の強国化を助けるのか?  Karl Dong-REUTERS

<先日の筆者のコラム「習近平vs李克強の権力闘争が始まった」に反論文が寄せられた。これに再反論する>

9月1日、Yahoo!ニュースとニューズウィーク日本版オフィシャルサイトの両方にある寄稿が掲載された。「『習近平vs.李克強の権力闘争』という夢物語その1」「その2」というタイトルである。文章のタイトルからしても、この寄稿文の筆者自身の説明からしても、「習近平vs.李克強の権力闘争」説を主張する「権力闘争論者」に対する論破と批判を内容としている。

「権力闘争論者」は誰のことを指しているか、筆者は明言していない。しかし、この寄稿が掲載されたその前日の8月31日、同じくニューズウィーク日本版オフィシャルサイトとYahoo!ニュースの両方に私の論考「習近平vs.李克強の権力闘争が始まった」が掲載された。少なくとも、筆者の批判する「権力闘争論者」には私、石平が入っていると思うべきであろう。

【参考記事】習近平vs李克強の権力闘争が始まった

同じ中国問題を論じるこの筆者と、正しく議論することは私も大歓迎である。ただしそれが間違った批判であれば、当然反論しなければならない。

反論のために批判文を読み直すと、まず気づいたのはその長さである。おそらく私の論考の倍くらいあるはずであるが、長さのわりに「あら」が目に付く。批判の論点をいくつか拾って反論しよう。

例えば、今年6月に李克強首相が「露天経済」を提唱した一件について、批判文の「その1」は、「日本の権力闘争論者は『習近平の了承も得ずに禁止されている露天商を推薦したのは習近平への反乱だ』という趣旨の主張をしている」と批判を展開している。だが、これは間違っている。

私は確かに、6月18日の産経新聞掲載のコラムで、李首相の「露天経済提唱」の一件を取り上げた。しかし私はこのコラムでも別のところでも、「習近平の了承も得ずに禁止されている露天商を推薦したのは習近平への反乱だ」とは論じていない。むしろその逆のことを言っている。つまり、李首相が「露天経済」を提唱してから数日後、北京日報などが「露天経済は要らない」と否定し始め、結果的に習近平主席サイドに潰された形になったという事実関係を、「習近平vs.李克強の権力闘争」の証拠として取り上げている。「李克強の露天商推薦は習近平への反乱」とは言っていないし、「権力闘争論者」の誰かがこう論じているのも見当たらない。

つまり、「露天商を推薦したのは習近平への反乱だ」という「論」は、決して「権力闘争論者」の「論」ではなく、それは批判文の筆者が言い出して私たちに押し付けたものである。人の言っていない「論」を押し付け、人を批判するのは文革時代の紅衛兵たちの「壁新聞」を彷彿させる。

プロフィール

石平

(せき・へい)
評論家。1962年、中国・四川省生まれ。北京大学哲学科卒。88年に留学のため来日後、天安門事件が発生。神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。07年末に日本国籍取得。『なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか』(PHP新書)で第23回山本七平賞受賞。主に中国政治・経済や日本外交について論じている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日経平均は反発で寄り付く、米株高を好感 ファストリ

ワールド

訂正ブラジル大統領、米50%関税に報復示唆 緊張緩

ワールド

英首相がトランプ氏と会談へ、月内のスコットランド訪

ワールド

米国務省、人員削減計画を近く開始 影響受ける職員に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 6
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 7
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 8
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 9
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 10
    ハメネイの側近がトランプ「暗殺」の脅迫?「別荘で…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story