コラム

「習近平版文化大革命」の発動が宣言された――と信じるべきこれだけの理由

2021年08月31日(火)18時12分

過去の言論で文化人を断罪する「文革手法」

芸能界での文化大革命の開始と同時に、言論界に対する統制と粛清もより一層厳しくなってきている。

8月27日、国内のネット統制を主な任務とする国家インターネット情報弁公室が通達を出し、経済政策や経済問題に関するネット上の情報発信と批判を厳しく取り締まる方針を示した。通達によると、今後はネット上で「政府の経済政策を歪曲したり、中国経済衰退論を唱えたり、海外の中国経済論評を無批判に流布したり」する発言や論評は取締りの対象となる。

中国共産党政権下では、党と政府の政策方針に対する政治的批判は以前から御法度であるが、鄧小平時代以来の数十年間、経済問題に関する議論はおおむね自由で、建言という立場からの政府の経済政策に対する批判は基本的に許されていた。しかし、今後は経済問題に関する批判的言論までがネット上から一掃される。あらゆる領域で「1つの声」しか許されない、という文革大革命時代が戻ってくるような雰囲気である。

この通達に先立って、ネット上の著名文化人の1人が封殺の対象となった。有名歌手・作曲家・音楽プロデューサー・作家の高暁松は、2014年から2017年までの数年間、「暁松奇談」というネット番組を持っていた。天文地理や歴史・文化などの幅広い領域の話をネタにしたトークショーで、当時大変な人気を博して最近までよく視聴されていたが、8月27日の段階でこの番組の全ての映像がネット上から消えていることが判明した。

そして8月28日、中国社会科学院所属の中国歴史研究院が長文の批判文を掲載し、高暁松が上述の「暁松奇談」で行った過去の「問題発言」を掘り返し、厳しく批判した。高がアメリカやインドの民主主義を称賛した発言や抗日戦争における蒋介石の功績を肯定した発言が取り上げられているが、上述の中国歴史研究院の批判文は、こうした言論を1つ1つ引っ張り出して高の「6つの罪」を列挙して断罪した。

かつて文革大革命を体験した中国人なら、この批判文を読んで背筋に寒さを感じるはずだ。人の過去の発言を掘り出して「5つの罪」「6つの罪」と断罪するのは、まさに文化大革命時代に流行っていた「革命批判」の手法そのものだからだ。

プロフィール

石平

(せき・へい)
評論家。1962年、中国・四川省生まれ。北京大学哲学科卒。88年に留学のため来日後、天安門事件が発生。神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。07年末に日本国籍取得。『なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか』(PHP新書)で第23回山本七平賞受賞。主に中国政治・経済や日本外交について論じている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米・ウクライナ、鉱物資源協定に署名 復興投資基金設

ワールド

トランプ氏「パウエル議長よりも金利を理解」、利下げ

ワールド

一部の関税合意は数週間以内、中国とは協議していない

ワールド

今年のロシア財政赤字見通し悪化、原油価格低迷で想定
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 2
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・ロマエとは「別の役割」が...専門家が驚きの発見
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story