コラム

戦略性を失った習近平「四面楚歌」外交の末路

2020年07月17日(金)18時00分

国境での衝突に抗議するため習近平のポスターを燃やすインドの人々(6月22日、ニューデリー) Adnan Abidi-REUTERS

<アメリカやイギリス、カナダ、オーストラリア、インドそして日本......なぜ中国は同時にいくつもの国といざこざを起こすのか。計算もしたたかさもない習近平の「気まぐれ外交」は負のスパイラルに陥っている>

中国にとって、2020年の国際環境はまさしく「最悪」というべきであろう。

まず、中国にとって最重要な2国間関係である米中関係は今、1979年の国交樹立以来、最悪の状態にある。特に7月に入ってから、米政府は南シナ海に対する中国の領有権主張と軍事的拡張を「違法行為」だと断罪し、「ウイグル人権法案」を根拠に陳全国・共産党政治局員ら高官に対する制裁を発動し、国家安全維持法が施行された香港への優遇措置を廃止し、台湾への新たな武器売却を承認......と、外交・軍事両面における「中国叩き」「中国潰し」に余念がない。

その一方、経済でも米政府は中国製品に対する莫大な制裁関税を継続し、米企業の中国からの移転をうながしつつ、華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)への封じ込めに一層力を入れている。そして、トランプ大統領は6月18日、「中国との完全なデカップリング(切り離し)」に言及した。

こうした厳しい現状を中国側も当然認識している。7月3日、人民日報系の環球時報は中国共産党中央委員会対外連絡部の周力・元副部長の論文を掲載したが、「外部環境の悪化」をテーマとするこの論文は冒頭から米中関係の「劇的悪化」取り上げ、「米中間の闘争の全面的エスカレートに備えよう」と呼びかけている。公職から退いたとはいえ、共産党元高官が「闘争」という言葉まで持ち出して米中関係を論じるのはまさに異例だ。

アメリカの隣国であるカナダとの関係も全く良くない。6月19日、中国が2人のカナダ人をスパイ罪で起訴すると、カナダ政府はそれを「恣意的」だと批判。トルドー首相は「非常に失望している」と述べ、6月26日にファーウェイ幹部でカナダ当局に拘束されている孟晩舟とこの2人のカナダ人との交換を拒否した。この問題をめぐって、中国とカナダとの確執は今後も続くだろう。

もう一つの英連邦国家であるオーストラリアとの関係も悪くなる一方である。本来、オーストラリアは中国と良好な関係にあった。だが今年4月、オーストラリアのモリソン首相が国際社会に新型コロナウイルスの発生源に関する独立した調査を訴えると、それが中国の逆鱗に触れた。中国は5月以降、豪州産の大麦の輸入に法外な制裁関税をかけたり、オーストラリア旅行の自粛を中国人に呼びかけるなど陰湿な手段を使っての「豪州いじめ」を始めた。

これで中豪関係は一気に冷え込んだが、6月末に中国が香港国家安全維持法を強引に成立させると、オーストラリア政府は香港との犯罪人引渡し条約を停止。中国側のさらなる強い反発を招いた。オーストラリア政府は最近、中国の一層の反発を覚悟の上で、香港からの移民受け入れの検討に入ったという。

プロフィール

石平

(せき・へい)
評論家。1962年、中国・四川省生まれ。北京大学哲学科卒。88年に留学のため来日後、天安門事件が発生。神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。07年末に日本国籍取得。『なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか』(PHP新書)で第23回山本七平賞受賞。主に中国政治・経済や日本外交について論じている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年2月以来の低水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 5

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 9

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 8

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story