コラム

「鳥は解放された」1日400万ドルの損失を出すツイッターに謎の投稿をするマスクは何がしたい?

2022年12月12日(月)11時20分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)
月世界旅行

©2022 ROGERS–ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<規制が緩和されてヘイトスピーチやフェイクニュースが急増しているが、マスクを批判したり、バカにする「不敬罪アカウント」は凍結されている。何のための買収なのか>

お月様の目にロケットが刺さった絵面は、日本で知名度が少し低そうだが、大丈夫だろう。このコラムの読者は博学多才な人ばかりだから!

でも、念のために解説しよう。風刺画は映画『月世界旅行』の一場面だ。巨匠ジョルジュ・メリエス監督が1902年に発表した史上初のSF映画だが、帝国主義をこき下ろす鋭い風刺映画でもある。

それから120年。宇宙ベンチャーで月旅行を計画するイーロン・マスクは、ツイッターという名の「マスク帝国」の独裁者として、鋭い風刺画でこき下ろされている。

440億ドルでツイッター社を買収したマスクは、CEOになってすぐThe bird is freed(鳥は解放された)と、謎のツイートをした。その直後、役員を全員クビにしたから、多分「鳥=取締役」で「解放=解雇」という暗号だったんだろうね。

もちろん、「規制に囲われたツイッター(鳥)を自由にする」という解釈のほうが一般的だ。

マスクは、まずユーザーに「永久凍結されたトランプ前大統領のアカウントを復活させるべきか?」そして「法律を犯したか、ひどいスパム行為に関わっているかしない限り、凍結された全アカウントに恩赦を与えるべきか?」という2つのアンケートを取った。

どちらも「はい」の回答が過半数を占めたことで、マスクはトランプのものを皮切りに、数万ものアカウントを「解凍」し始めた。

そして案の定、規制の緩みとともに、ヘイトスピーチやフェイクニュースが急増しているもようだ。

タフツ大学の調査によると、マスク就任後の数週間での人気ツイートトップ20のうち、7つが反LGBTQ+や反ユダヤ的な言葉を用いていた(就任前はたった1つだった)。同時にツイッター社は、新型コロナに関する誤情報拡散を防ぐための投稿規制を取りやめた。

しかし、無法地帯になったわけではない。嫌がらせや誤報は許されるが、絶対に許されない行為もある。それは......マスクを批判したり、バカにしたり、マスクに成り済ましたりすることだ。そんな投稿をしたアカウントの凍結が相次いでいる。

1日400万ドルの損失を出すツイッター社の不経済を許さないマスクは、ユーザーの不敬罪も許さないようだ。あ、不敬罪というのは......いや、大丈夫! みんな博学多才だね!


ポイント

APOLOGIES TO GEORGES MÉLIÈS
ジョルジュ・メリエスさん、ごめんなさい

GEORGES MÉLIÈS
ジョルジュ・メリエス。映画草創期に活躍したフランスの映像制作者。奇術師としての本職を生かして多くの映像トリックや演出を生み出し、後続に絶大な影響を与えた。監督・脚本・主演を務めた『月世界旅行』はポップカルチャーで繰り返しパロディーの対象になっている。

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「停戦は発効」、違反でイラン以上にイスラ

ワールド

ガザの食料「兵器化」、戦争犯罪に該当 国連が主張

ワールド

ドイツ、25年度予算案を閣議了承 投資と利払い急増

ビジネス

独IFO業況指数、6月は予想以上に上昇 景気底入れ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり得ない!」と投稿された写真にSNSで怒り爆発
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    細道しか歩かない...10歳ダックスの「こだわり散歩」…
  • 6
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 7
    EU、医療機器入札から中国企業を排除へ...「国際調達…
  • 8
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 9
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 10
    「水面付近に大群」「1匹でもパニックなのに...」カ…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 8
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 9
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 10
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story