コラム

歴史は繰り返す──史上2回目の「洋務運動」の失敗で、再び没落する中国

2022年11月08日(火)14時20分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
習近平

©2022 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<ナンバー2だった李克強の降格・引退、胡錦濤を途中退席させるなど、「一党独裁」から毛沢東時代の「一尊独裁」に戻ったことを世界に宣告。「一尊独裁」は、清朝末期を彷彿させる>

中国共産党の第20回全国代表大会(以下「二十大」)について、未来の歴史家はこう書くだろう。この会議で中国は一党独裁政権から、さらに悪い毛沢東時代の「一尊独裁」政権に戻ったことを世界に宣告した、と。

二十大の開催前、「習下李上」の噂が中国語のツイッターユーザー間で拡散した。習近平(シー・チンピン)国家主席は降格し、李克強(リー・コーチアン)首相が昇格するという意味だが現実は真逆だった。

李は来年、首相から降りる。共産党の最高指導部である政治局常務委員会メンバーは習以外すべて習の腹心である。共産党の集団指導体制による独裁時代が終結し、これからの中国が習1人による独裁時代を迎えることは明白だ。

特に、二十大の閉幕式で前国家主席の胡錦濤(フー・チンタオ)が目の前の書類を見ようとしたとき、前例がない途中退席を促された件をめぐり、政治的な臆測が飛び交っている。

習は既に胡などの前指導者を眼中に置いていない。これからの中国は共産党の天下ではなく、習の天下である。官僚が出世できるかどうかの基準は、党に対する忠誠度から習に対する忠誠度に転換した。

例えば今回の最高指導部に入った前上海市党委員会書記の李強(リー・チアン)。李強は上海在任中、習のゼロコロナ政策を強制的に実施することで上海市民を苦況に追い込み、自殺などの「非正常な」死亡事件も起きた。

なのに、責任を問われるどころか、政治局常務委員会の新メンバーに入り、来年3月には第8代首相に就任する見込みである。能力より従順さと忠誠心のほうが重視されるのは、「一尊独裁」の特徴の1つだ。

さかのぼること19世紀、1860年代から1890年代にかけて、清朝は国力増強を目指し、ヨーロッパ近代文明の科学技術導入を進めた。中国近代史における有名な「洋務運動」だが、最終的に清政府の時代遅れの政治体制のせいで失敗した。

洋務運動と同じように、1980年代から改革開放によって開かれた世界との交流のドアも、習近平の「一尊独裁」政府により閉められるだろう。

中国史上における2回目の洋務運動の失敗だ。歴史は繰り返す。100年以上隔っているが、今の赤色帝国と大清帝国の末期はよく似ている。

ポイント

一尊独裁
一尊とは、ある地域の思想や制度の唯一の権威である人物のこと。司馬遷の史記に書かれた中国語の成語「定於一尊」に由来する。2018年頃から習近平に対して使われるようになった。

李強
1959年生まれ、63歳。浙江省出身。元排水・かんがい施設労働者。浙江省政府でキャリアを積み、省トップだった習近平に秘書役として仕え、出世のチャンスをつかんだ。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:トランプ税制法、当面の債務危機回避でも将来的

ビジネス

アングル:ECBフォーラム、中銀の政策遂行阻む問題

ビジネス

バークレイズ、ブレント原油価格予測を上方修正 今年

ビジネス

BRICS、保証基金設立発表へ 加盟国への投資促進
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索…
  • 7
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 8
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 9
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 10
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 6
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギ…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 10
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 7
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 10
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story