コラム

中国女性の価値は「カエル20匹」と同等? 女性誘拐が続発する残酷すぎる実状

2022年02月16日(水)11時12分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
中国女性(風刺画)

©2022 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<中国江蘇省徐州市の村で小屋に監禁されていた女性の映像がネットで炎上したが、妊娠させる目的での女性の誘拐・売買は今も少なからず発生している>

2022年の春節、中国では官製メディアが盛大な北京冬季五輪の開幕式を伝える一方で、江蘇省徐州市の村で小屋に監禁されていた女性の映像がネットで炎上した。女性は冬の寒さの中、薄着で首に鎖を巻かれてゴミだらけの小屋に閉じ込められていた。彼女は来歴も名前も不明。20年以上前から監禁され、8人の子供を産まされた。誘拐されたのではないかと疑われている。

中国には女性誘拐の伝統がある。そしてそれは貧しい農村部であればあるほど多発する。農民たちは跡継ぎを残すため、一生分の貯金を使って人さらいから女性を買い取る。誘拐された女性の中には未成年もいるし、大都会の女子大学生もいる。かつて上海の女子大学院生が社会調査をしていた時に誘拐され、2480元(約4万5000円)で農民に売られたこともある。

1989年に出版されたノンフィクションによると、86~89年の3年間だけで、徐州に誘拐された女性は4万8100人以上。法制日報も2014年の1年間だけで、誘拐された後救助された女性は中国全土で3万人以上いたと報じている。

旧態依然とした意識だけでなく、法の不備も原因だ。希少動物の違法売買に対する刑罰は、例えばパンダは懲役10年以上、インコは5年以下、20匹のヒキガエルの場合は3年以下。女性誘拐の罪は20匹のヒキガエルと同じだ。

地方政府の不作為もある。今回の徐州で起きた女性監禁事件について、地元政府は今も「合法的な婚姻だ」「違法性はない」と公言している。

また官製メディアは誘拐を美化する。河南省出身の郜(カオ)という女性は18歳で河北省に誘拐され、2700元で羊飼いに売られた。レイプと暴力を受けた彼女は逃走と自殺に何度も失敗した後、羊飼いとの間に2人の子を産んだ。そして村で唯一字を読める人として教師になった。メディアは「最も美しい山村の女性教師」と賛美し、『嫁給大山的女人(山に嫁いだ女性)』という映画のモデルになった。

毛沢東時代の社会主義中国では、女性が「天の半分(半辺天)を支える」存在として活躍するとされた。中国女性は他国の女性より権利を認められ、活躍しているとも考えられている。しかし、これが21世紀中国の「半辺天」の現実だ。

ポイント

嫁給大山的女人
2009年公開。誘拐された女性が自殺未遂の後、夫の父母の善意にほだされ、貧しい家を支え村人の遅れた思想を正し教員になるストーリーが「事実に合わない」と批判された。

半辺天
大躍進運動が始まった1958年前後から女性の生産力を活用する目的で「婦女能頂半辺天(女性が天の半分を支える)」というスローガンが使われ始め、後に短く「半辺天」となった。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

半導体への関税率、EUに「劣後しないこと」を今回の

ワールド

米政権、ハーバード大の特許権没収も 義務違反と主張

ビジネス

中国CPI、7月は前年比横ばい PPI予想より大幅

ワールド

米ロ首脳、15日にアラスカで会談 ウクライナ戦争終
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた「復讐の技術」とは
  • 2
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段の前に立つ女性が取った「驚きの行動」にSNSでは称賛の嵐
  • 3
    輸入医薬品に250%関税――狙いは薬価「引き下げ」と中印のジェネリック潰し
  • 4
    伝説的バンドKISSのジーン・シモンズ...75歳の彼の意…
  • 5
    なぜ「あなたの筋トレ」は伸び悩んでいるのか?...筋…
  • 6
    【クイズ】次のうち、「軍用機の保有数」で世界トッ…
  • 7
    職場のメンタル不調の9割を占める「適応障害」とは何…
  • 8
    60代、70代でも性欲は衰えない!高齢者の性行為が長…
  • 9
    今を時めく「韓国エンタメ」、その未来は実は暗い...…
  • 10
    「靴を脱いでください」と言われ続けて100億足...ア…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 6
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 7
    メーガンとキャサリン、それぞれに向けていたエリザ…
  • 8
    職場のメンタル不調の9割を占める「適応障害」とは何…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「軍用機の保有数」で世界トッ…
  • 10
    こんなにも違った...「本物のスター・ウォーズ」をデ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 10
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story