コラム

ファーウェイだけは「中国分裂罪」も大目に見られる

2019年08月31日(土)14時20分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)

Money Changes Everything / (C)2019 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<この夏、香港やマカオを国のように扱って「中国分裂」を図ったとして、外資企業が次々につるし上げられて謝罪に追い込まれた>

今年の夏は中国に進出する外資企業にとって「謝罪の夏」だ。

香港のデモについて、中国官製メディアが香港独立派を「港独勢力」と定義して以来、少しでも不謹慎な言動があればすぐ「港独支持罪」「中国分裂罪」だと認定されている。

真っ先に「中国分裂罪」とされたのはイタリアのヴェルサーチだ。証拠は一枚のTシャツ。「Beijing-CHINA」というように、都市名と国名を並べて表記したTシャツで香港とマカオが「Hong Kong-HONG KONG」「Macau-MACAO」と表記された。これは香港やマカオを国のように扱い、その独立を支持し、「一つの中国」を破壊する意図ではないかと、中国のSNS上で若い愛国者「小粉紅」たちが製品ボイコットを呼び掛けた。

愛国の波には誰も逆らえない。ヴェルサーチは慌ててネット上で公開謝罪し、Tシャツを販売中止して廃棄した。続いてコーチ、ジバンシィ、アシックスも次々と中国分裂罪を告発された。外資ブランドの公開謝罪ショーは中国SNS上からフェイスブックやツイッターに広がった。小粉紅たちが「壁越え」して、きちんと海外でも謝罪文を出したかチェックするからだ。

ただし、ここで問題が起きる。小粉紅らが自慢する民族企業、華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)の中国分裂罪が発覚したのだ。ファーウェイのスマホのタイムゾーン表示は大陸で使われる簡体字を選んだ場合「台北(中国)」だが、繁体字だと「台北(台湾)」と表示される。明らかに台湾を独立国と見なしているではないか、と小粉紅らは啞然とした。

「『含趙量』が高いファーウェイを小粉紅らはどうやってボイコットするか楽しみだね」と、自由派のほうが思わず失笑した。含趙量とは、どれだけ共産党の特権を持つかを示すスラングだ。

含趙量が高いファーウェイは公開謝罪もせず、ソフトの修正だけで済ませた。この愛国企業が中国分裂罪を犯した理由は、国際標準化機構(ISO)の国名コードを使ったからとされている。

しかし国名コードの表記は「中国台湾省」。なぜわざわざ「台湾」と表記したのか。CEOの任正非(レン・チョンフェイ)が実は台湾独立支持派......ではなく、単に中国嫌いの多い台湾でスマホをたくさん売りたかったからだろう。

【ポイント】
含趙量

「趙」の出所は文豪・魯迅の小説『阿Q正伝』。みすぼらしく能力もない阿Qに対して威張りちらす上流階級の趙家の当主を、特権階級化した共産党の官僚やその周囲の金持ち、その子女たちになぞらえた「趙家人」という言葉から生まれた。中国を暗に指す「趙国」、人民解放軍を意味する「趙家軍」というスラングもある。

<本誌2019年9月3日号掲載>

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ大統領、貿易交渉で日本よりインドを優先=関

ワールド

仏・ロシア首脳が電話会談、ウクライナ停戦やイラン核

ビジネス

FRB議長、待ちの姿勢を再表明 「経済安定は非政治

ワールド

トランプ氏、テスラへの補助金削減を示唆 マスク氏と
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 7
    あり?なし? 夫の目の前で共演者と...スカーレット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    未来の戦争に「アイアンマン」が参戦?両手から気流…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story