コラム

外国人のための中国共産党大会講座

2017年11月08日(水)11時30分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/李小牧(作家・歌舞伎町案内人)

©2017 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<中国共産党大会で最高指導部となったメンバー7人は、習近平を除けば単なるお飾り。習がこれから毛沢東のような独裁者になる可能性もある>

人形の中から人形が出てくるロシアの「俄羅斯套娃(マトリョーシカ人形)」のプーチン版をご存じだろうか。開けても出てくるのはプーチン大統領ばかり。つまり、ロシアに本当の権力者はプーチンしかいない、という皮肉だ。では中国でも、習近平(シー・チンピン)国家主席ばかりのマトリョーシカ人形が作られるのだろうか?

共産党大会が先日終わり、新しい最高指導部のメンバー7人が発表になったが、外国メディアの予測報道は軒並み外れ、独裁を続けたい習は後継者候補の若手を選ばなかった。普段でも共産党取材は難しいが、習体制になって情報統制が厳しくなり、より展開が読みづらくなっている。そこで私が今回、特別に「外国人のための党大会講座」を開講しよう。

まず、みんな忘れているようだが、今回の最大の勝利者は習の盟友である王岐山(ワン・チーシャン)のスキャンダルをアメリカで告発し続けた大富豪の郭文貴(クオ・ウエンコイ)だ。王が定年延長をゴリ押しして最高指導部に残れなかったのは、明らかに郭の告発が原因。いろいろ批判されたが、個人で国家に戦いを挑んで結果を出したのだから立派な男だ。

最高指導部の人選も、胡錦濤(フー・チンタオ)前主席派や江沢民(チアン・ツォーミン)元主席派が入ったから習は妥協を強いられたという分析がある。これも間違いだ。トップである政治局常務委員7人は習を除けば単なる飾り。その下の政治局員、中央委員は圧倒的に習の息の掛かった人物が多い。

大した実績もないのに党規約に「習近平の......(長いので省略)思想」を入れた。習は今、毛沢東が住んでいた北京・中南海の「菊香書屋」で暮らしていると聞く。鄧小平も住めなかった場所だ。洗脳教育の効果で国民の礼賛ムードも高まっている。共産党員の大学生が、外資系企業の就職面接で「会社に党支部をつくれ」と大真面目に語ったそうだ。

文革を発動し、死ぬまで独裁を維持した毛は82歳まで生きた。習は今年64歳。習だけのマトリョーシカ人形が作られるのはまだ早い。しかしもし10年の任期を超えて続投するなら......マトリョーシカ人形どころか、毛主席記念堂に代わって習主席記念堂が北京にできるだろう。

【ポイント】
菊香書屋
清朝・康熙帝時代の建築。毛沢東が中南海で初めて住んだ家。毛はベッドの上に歴史書を並べ、それを読みながら権謀術数を練った

毛主席記念堂
北京・天安門広場のそばにある毛沢東の遺体を収めた施設。なぜか見学者は足早に遺体の前を通過させられる。遺体ではなくろう人形との説も

<本誌2017年11月14日号掲載>

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インド・EUのFTA交渉、鉄鋼・車・炭素税でさらな

ビジネス

日産社長「国内事業を再始動」、新型エルグランドとパ

ワールド

豪の難民ナウル移送、秘密裏の実施を懸念=人権委

ビジネス

消費者態度指数、10月は3カ月連続上昇し35.8 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」にSNS震撼、誰もが恐れる「その正体」とは?
  • 2
    コレがなければ「進次郎が首相」?...高市早苗を総理に押し上げた「2つの要因」、流れを変えたカーク「参政党演説」
  • 3
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大ショック...ネットでは「ラッキーでは?」の声
  • 4
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 5
    「ランナーズハイ」から覚めたイスラエルが直面する…
  • 6
    楽器演奏が「脳の健康」を保つ...高齢期の記憶力維持…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    リチウムイオンバッテリー火災で国家クラウドが炎上─…
  • 9
    「何これ?...」家の天井から生えてきた「奇妙な塊」…
  • 10
    怒れるトランプが息の根を止めようとしている、プー…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 10
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story