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いまアメリカでこれだけパレスチナ支持が広がる深刻な理由
パレスチナ人への連帯を示すハーバード大学の集会(10月14日) BRIAN SNYDER―REUTERS
<ハマスの奇襲攻撃はイスラエルにとっての「9.11」だった、はず......それなのに、イスラエル寄りのアメリカでパレスチナ支持が広がる背景とは>
ハーバード大学やコロンビア大学など、米名門大学の一部学生がパレスチナへの支持を表明したことが、深刻な分断をもたらしている。学生たちの行動をきっかけに、大学への寄付を取りやめる大口寄付者も相次いでいる。
寄付者たちは、大学当局が反ユダヤ主義を黙認し、テロを支持する主張を許容していると考えて、怒りをたぎらせているのだ。いわば「イスラエル版9.11テロ」のような出来事の後、野蛮な斬首やレイプ、赤ちゃんや高齢者の惨殺を正当化するなど言語道断だ、というわけだ。
しかし、学生たちの反応は意外なものではない。2001年の9.11テロ直後、パレスチナに共感する人は16%だったのに対し、イスラエルに共感する人はその3倍を超えていた。この点では、共和党支持者も民主党支持者も、無党派層も大きな違いがなかった。
ところが近年は、パレスチナに共感する人の割合は30%前後、民主党支持者の間では50%に迫っていた。どうして、このような変化が生まれたのだろうか。
1つには、10年近く前に起きた出来事の影響を挙げることができる。14年6月、2人のパレスチナ人の若者がイスラエル軍の兵士に殺害され、おそらくその報復としてヨルダン川西岸で3人のイスラエル人の若者が拉致されて殺害された。
すると、イスラエル軍が大がかりな軍事作戦を開始し、500人以上の子供を含む2000人を超すパレスチナ人が死亡した。一方、イスラエルの民間人の死者は6人だった。
当時は、既にソーシャルメディアが普及し始めていて、現地の未加工の映像がリアルタイムで拡散し、既存メディアに触れる習慣のない人たちにも届いた。これが世論の動向に及ぼした影響は大きかった。
しかし、要因はそれだけではない。パレスチナへの支持がもっぱら民主党支持者の間で高まっていることを考慮すると、アメリカ社会における党派間の亀裂のほうがより大きな要因と言えるかもしれない。
パレスチナにロシアを重ねられたと激怒
今日、民主党の左派や若い世代の支持者の間では、社会的・経済的な不平等への問題意識が強まっている。その点、イスラエルとパレスチナの間には、力と富と軍事力に途方もない格差が存在する。国内政治で貧困の構造的要因に強い関心を抱くリベラル派民主党員たちが、国際政治でパレスチナに共感を抱き、パレスチナを支持するのは、自然な流れだったのかもしれない。
いまアメリカの大学やソーシャルメディアで罵詈雑言が飛び交っていることに関して最も気がかりな点は、社会での対話から礼節が失われてしまったことだ。私はつい最近、70カ国の学生たちと一緒に1週間過ごした。パレスチナを含む中東出身の学生たちは、イスラエルの軍事行動により多くの民間人が死亡したことへの憤りを口にしたが、おおむね冷静に理性的に発言していた。
そうしたなかでパレスチナ人を含む中東の学生たちが最も感情を高ぶらせたのは、ロシア・ウクライナ紛争とイスラエル・パレスチナ紛争の扱いの違いを指摘したときだった。2つの紛争の図式はほとんど違わないのに、両者の扱われ方が違いすぎると、学生たちは考えていた。その上、パレスチナがロシアと重ね合わせた扱いをされていることに激しい怒りを感じていたのだ。
地政学的な議論は本稿の主題ではないが、はっきり言えることが1つある。議論する際は、敵対者の善意を信じ、できるだけ広い心で相手の言葉に耳を傾けるべきだ。議論と対話を閉ざせば、流血を止める手だてが失われる。暴力の悪循環を断ち切りたいと思うのであれば、相手の視点を知ることが不可欠だ。
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