コラム

メドベージェフは後継本命から後退...プーチンが絶大な信頼を置く「影の実力者」とは

2022年10月19日(水)17時22分
プーチン看板

強力な権力基盤を持つプーチン(右)だが退場の日はいつか来る MIKHAIL SVETLOV/GETTY IMAGES

<権力基盤は盤石に見えるプーチンだが、戦況は悪化し病気説も。「ツァーリ(皇帝)退場」後の後継者と政局を予測する>

数年前、ロシアのサンクトペテルブルクで開かれた国際会議でのこと。「外国人がロシアについて尋ねる質問で、最もくだらないと思うものは何か」と問われ、ロシアの政治評論家はこう答えた。「プーチンの後継者は誰か?だ」

ウクライナでの戦況悪化にもかかわらず、プーチンは8月末時点で83%と高い支持率を維持している。これは2014年のクリミア併合の直後とほぼ同じで、これまでのプーチンの支持率の平均と比べても15~20%高い数字だ。(編集部注:独立系調査機関レバダセンターが9月下旬に実施した世論調査でプーチンの支持率は77%)

プーチンはウクライナ侵攻に自分の歴史的評価を懸けている。この戦いをピョートル大帝の事績になぞらえ、ロシア1000年の歴史の一ページとして位置付けようとしている。一方で世論調査のデータを詳細に分析してみると、戦争遂行に向けた国民の意欲は非常に低い。

男性の62%は動員に応じる用意ができていない。その上、喜んで戦地に行くと答えた人々の大半はソ連時代の生まれ、つまり45~59歳で、激しい戦闘には不向きな年代だ。そして国民の69%は軍隊のために自分の金を出すのはごめんだと思っている。

右派の軍事ブロガーたちがロシア軍幹部の過失をたたき、なぜプーチンは国家総動員令を出さないのかと声高に主張する一方、一部の地方自治体の首長たちはプーチンの弾劾を公式に求めている。そんななか、プーチンの支持率が急落して退場する展開は本当にあり得ないのだろうか。

私にロシアの情報をもたらしてくれる人々の中でも一番の切れ者は、国立の名門校でエリート教育を受け、最も格の高い国家機関で働いてきた友人だ。彼に言わせればプーチンはサバイバルの天才だ。

プーチンはロシア国民が自分に依存する状況をわざとつくり、それ故に自分が表舞台から去るタイムテーブルを自らの手で完全にコントロールできると友人は言う。いつか起きる交代劇も、後継候補の人選から台本まで全てプーチンがきっちり決めたとおりになるはずだと言うのだ。

だがロシア人が戦争に負けた最高指導者に非常に冷たいのは歴史を見れば明らかだし、ちょうど10年前の大統領選後もロシア世論はプーチン批判で盛り上がったではないか──そんな私の反論を友人は一蹴した。何が起きようともプーチンをクビにするメカニズム自体が存在しないというのだ。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

エヌビディア決算に注目、AI業界の試金石に=今週の

ビジネス

FRB、9月利下げ判断にさらなるデータ必要=セント

ワールド

米、シカゴへ州兵数千人9月動員も 国防総省が計画策

ワールド

ロシア・クルスク原発で一時火災、ウクライナ無人機攻
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋肉は「神経の従者」だった
  • 2
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 3
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」の正体...医師が回答した「人獣共通感染症」とは
  • 4
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 5
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 6
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    株価12倍の大勝利...「祖父の七光り」ではなかった、…
  • 9
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 10
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 6
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 7
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 8
    「このクマ、絶対爆笑してる」水槽の前に立つ女の子…
  • 9
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 10
    3本足の「親友」を優しく見守る姿が泣ける!ラブラ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story