コラム

【モスクワ発】ウクライナ戦争を熱烈支持するロシア人の心理

2022年03月08日(火)13時30分

NW_POT_03B.jpg

モスクワで「プーチン以外は戦争不要」というプラカードを掲げる市民(2月24日)。侵攻への抗議ではロシア各地で6 0 0 0 人以上が拘束された EVGENIA NOVOZHENINAーREUTERS 

もう1人の友人は、イラク戦争のほうがウクライナの100倍悪いと主張。ロシアが非難されるのは、欧米がこの国を完全に破壊したいと思っているからだと言った。

別の友人で、外相や多くの大使が卒業した国内最高のエリート大学の学部長も、侵攻の可能性はないと言っていた。だが実際に侵攻が始まると、彼はこんな声明を出した。

「ロシアの目標は変わらない。ロシアの国益にもっと配慮した、より公平な安全保障体制をヨーロッパに構築することだ。NATOのセルビア空爆(1999年)以降の欧州で最大の軍事危機はビジネスのようにルーティン化されている。このことは、国際関係が歴史的に正常な状態に回帰しつつあることを示している」

留学生の多くはこれに猛反発したが、ロシア人の同僚の反応はおおむね好意的だった。

若いロシア兵の遺体の山が無言の帰国をする事態はまだ発生していない。通貨ルーブルは暴落し、物価は既に上昇し始めたが、本格的な経済の悪化はこれからだろう。

「見えない内戦」が始まったロシアが壊滅的な恐慌に陥る未来はおそらく避けられない。10年前、ルーブルの為替レートは1ドル=30ルーブル以下だったが、今月末には1ドル=300ルーブルになるとも言われている。

プーチンの人気と22年間の統治を支えてきたのは、生活水準の向上と安定だ。この2つの柱がわずか2週間でなぎ倒されたように見える。

一方、私がこの記事を書いている間にも、フェイスブックとツイッターへのアクセスが遮断または制限され、最も独立性の高い(おそらく唯一の)テレビ局とラジオ局が閉鎖された。

昨年のノーベル平和賞受賞者の1人ドミトリー・ムラトフが編集長を務める独立系新聞も、閉鎖の瀬戸際にあるそうだ。「プロパガンダ以外のものは全て排除されつつある」と、ムラトフは言う。

私はこの記事を書く前、モスクワにいる最も親しい友人に話を聞いた。ロシアのアイデンティティーの重要な基盤は第2次大戦中のナチス・ドイツに対する英雄的抵抗だが、今のロシアは自分が侵略者になってしまったと、彼は指摘した。

ウクライナ侵攻は現代ロシアの死であり、内戦の始まりでもある。この内戦は戦闘ではなく、大量の移民と、2つの異なる文化・社会への分裂によって顕在化する......。

この親友は他の多くの友人たちと違い、戦争に強く反対している。彼の推定によれば、少なくとも40%のロシア人も同意見だという。今回の出来事は経済的・軍事的な大惨事であると同時に、道徳的な破局でもあると、彼は主張する。

「ロシア人に近いウクライナ人との間に合意点を見いだせないのであれば、私たちの生き方そのものが破綻しているということだ。ウクライナと共存できないのなら、誰と共存できるというのか」

20240514issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月14日号(5月8日発売)は「岸田のホンネ」特集。金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口……岸田文雄首相が本誌単独取材で語った「転換点の日本」

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

サウジアラムコ、第1四半期は減益 配当は310億ド

ビジネス

再送任天堂、今期中にスイッチ後継機種を発表へ 営業

ワールド

英軍関係者の個人情報に不正アクセス、中国が関与=ス

ビジネス

植田日銀総裁が岸田首相と会談、円安「注視していくこ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 3

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 4

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    メーガン妃を熱心に売り込むヘンリー王子の「マネー…

  • 7

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 8

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 9

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 10

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story