コラム

【モスクワ発】ウクライナ戦争を熱烈支持するロシア人の心理

2022年03月08日(火)13時30分


NW_POT_02.jpg

プーチンがウクライナ東部2州の独立を承認すると、ドネツクの親ロシア派は花火を上げ、ロシア国旗を振って気勢を上げた(2月21日)ALEXANDER ERMOCHENKOーREUTERS

私が大人になって以降、アメリカはいつもどこかで戦争をしてきたが、私が軍事行動の痛みと悲しみを実感したのは今回が初めてだった。

私の娘の曽祖母2人(ロシア出身の妻の祖母だ)は、ウクライナに住んでいる。1人は、人生を通して地元を離れたことが2度しかない。

1度目は、私が近くの町で講演するのを聞きに来たとき。2度目は、この2月末。自宅のそばにある軍事施設が攻撃を受けて避難したのだ。

新型コロナに感染しているが、病院で治療を受けることはできない。私たちは電話するたびに、電話の向こうから彼女の声が聞こえるまでの間、不安で頭がおかしくなりそうになる。もう電話に出られなくなっているのではないか、と。

モスクワで暮らすロシア人たちもたいてい、ウクライナに大切な友人や親族がいる。親族の中にウクライナ人が1人もいないモスクワ市民はまずいない。

しかし、現状に対する認識は、ロシア人とウクライナ人の間で大きく異なる。反戦デモも起きてはいるが、ロシア人の間でこの戦争はおおむね支持されている。

妻の親族であるロシア人たちもその例外ではない。ウクライナの親族との電話で厳しい状況を聞かされているにもかかわらず、軍事作戦を熱烈に支持している。

ロシア政府はこの20年ほど、巧みに世論工作を行ってきた。ウクライナの市民が危険にさらされている原因は、ロシア軍ではなくウクライナ政府にあり、民間人が死亡するのは、ウクライナ軍が「人間の盾」として利用しているせいだと、ロシアの主要なテレビ局は主張している。

戦争初期の世論調査はあまり当てにならないものだが、私がロシア人たちと話した内容から判断しても、今回の戦争への支持は強い。少なくとも過半数の人は、戦争を支持していると言っていいだろう。

西側諸国による陰謀を信じて疑わない人も多い。おそらく、プーチンの支持率も若干上向くのではないかと思う。

ロシア国内の認識は、ワシントンやロンドン、東京を含む世界中のメディアの論調とは全く違う。私の親しい友人2人がいい例だ。

どちらもモスクワ在住で、社会的成功を収めた著名な人物だが、ロシアに短期滞在中の私が前回の本誌記事(3月1日号18ページ参照)の執筆準備しているとき、2人は侵攻の可能性はゼロだと断言した。侵攻があり得ると考えること自体、愚かなことだとまで言った。

だから侵略が始まった今は、落胆したりショックを受けたりしているのではないかと思った。だが、私の娘の曽祖母がミサイル攻撃で命を落とさないか心配だと話すと、友人の1人は下品な表現で侵攻への支持を口にした。以前は侵攻の可能性を論じることすら嘲笑していたのに。

私がそれを指摘すると、こんな答えが返ってきた。

「プーチンにそんな度胸があるとは思っていなかったんだ。でも、これがベストの選択だ。あいつら(ウクライナ)の尻を蹴っ飛ばしてやっつけてやったのは喜ばしい。あいつらは弱い。全員降伏寸前だ。キエフは今夜、手に入る」

家族の一員の身を案じる相手に向かって言う言葉かと思ったが、戦争の開始直後に愛国心が高揚するのはよくある現象だ。ジョージ・W・ブッシュ米大統領はアフガニスタン侵攻(2001年)の直後、90%近い支持率を誇ったが、退任時の支持率は約30%だった。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、予想

ビジネス

米財務長官、FRBに利下げ求める

ビジネス

アングル:日銀、柔軟な政策対応の局面 米関税の不確

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story