コラム

マララと真逆のグレタ・トゥーンベリが、人々の心をつかめる理由

2019年09月30日(月)15時50分

国連気候行動サミットでの感情的な演説は議論を呼んだ(9月23日) CARLO ALLEGRI-REUTERS

<国連でのスピーチで「時の人」になった16歳の環境活動家には「大人たちの操り人形」という批判もあるが、そのアピール力は危険なまでに魅力的だ>

1年ちょっと前、グレタ・トゥーンベリが抗議を始めた当初の写真を見た。15歳の少女は手作りのプラカードと共に、たった1人で地面に座っていた。その背後には、隣の建物のコンクリートの壁。若き環境保護活動家の孤独な姿は、絶望的な闘いに圧倒され、打ちひしがれているように見えた──。

だが、現在の世界は光の速度で変化する。アメリカ政治では、一夜にして「時の人」になった例が複数ある。現大統領もその1人だ。グレタのロケット並みの急上昇は、ことによるとそれ以上かもしれない。

私はこの影響で仕事の約束をキャンセルした。グレタが火を付けた気候変動に抗議する運動に街中が占拠されたためだ。自宅のすぐそばでは彼女がアムネスティ・インターナショナルから人権に関する最高の賞を贈られた。マララ・ユサフザイに続き、10代でノーベル平和賞を受賞する日も近いかもしれない。

グレタには特別な魅力がある。ある種の自閉症であるアスペルガー症候群の少女が、どうやって都市機能をマヒさせるほどの抗議運動をリードできるのか。

マララが私たちの心を動かしたのは、理不尽な悲劇に見舞われながらも失わない優雅さゆえだった。彼女は学校へ行く途中に頭部に銃弾を受けたが、決してひるまず、全ての女子生徒が安心して教育を受けられるようにするという目標を追求し続けた。マララの抑えた口調と控えめな提案は、私たちの心に圧倒的な共感を呼び起こした。

グレタは逆だ。真っ向から言葉を投げ付け、私たちを意図的に侮辱する。彼女は私たちに罪悪感と自責の念、そして何よりも恥の意識を感じさせたいのだ。

国連気候行動サミットに集まった要人たちの前で、グレタは感情的かつ情熱たっぷりに毒を吐いた。「あなたたちは私の夢、私の子供時代を空虚な言葉で盗んだ。よくもそんなことを」

トランプとの「共通点」

誰もがグレタを愛しているわけではない。私のSNSのニュースフィードは大学院教育を受けたエリート専門家の書き込みであふれているが、その内容は彼女に対する嘲笑の嵐だ。夢と子供時代を奪われたという国連演説の一節を取り上げて、若いシリア難民や飢えた子供と、移動中の列車でごちそうを食べるグレタの写真を対比させた画像もあった。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

高市首相「韓国のり大好き、コスメも使っている」 日

ワールド

高市首相が就任会見、米大統領に「日本の防衛力の充実

ビジネス

米GM、通年利益見通し引き上げ 関税の影響額予想を

ワールド

インタビュー:高市新政権、「なんちゃって連立」で変
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 5
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 6
    米軍、B-1B爆撃機4機を日本に展開──中国・ロシア・北…
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 9
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 10
    若者は「プーチンの死」を願う?...「白鳥よ踊れ」ロ…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 8
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 9
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 10
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story