コラム

「南向き信仰」に代わる「北向き愛」。強烈な日差しで超高層マンションに発生する灼熱地獄

2022年07月19日(火)18時15分

しかし、世界中を見渡すと、日本のように「南向き」にこだわる国は少数派だ。

欧米の一戸建ては道路側に玄関を配置するのが基本で、南向きかどうかは問題にされない。

またマンションのような集合住宅は、景色のよいほうに向けて建設される。ここでも、南向きにこだわらない。それどころか、南向きで直射日光が入ると、家具やカーペットが日焼けしてしまうので、南向きを避ける傾向もある。

年間を通して気温が高いアフリカは、太陽に背を向けて家を建てる。アフリカ大陸は赤道をまたいでいるので、北半球は北向き、南半球は南向きが好まれる。

太陽を向いた家をありがたがる国は少ないのだ。

そして、今の日本では「南向き」にこだわる必要もなくなっている。

それは、2003年の建築基準法改正で、すべての建築物に「24時間換気システム」の設置が原則的に義務づけられているからだ。

まず、建物の断熱性と気密性が高められ、それに24時間換気システムが加わることで、日本の住宅は室内環境が格段によくなった。南向きにしなくても、カビやダニの発生を心配する必要がなくなったわけだ。

それ以降、南向きにこだわる必要はなくなったのだが、「南向き信仰」だけが残ってしまった。

それが、夏に猛暑日が多くなった現在、大きな問題を生じさせている。

大きな窓で、目の前に遮る建物がないために......

夏、太陽光が入りすぎて困るのは、マンション、それも超高層マンションだ。それには、2つの理由がある。

ひとつ目の理由は、南を向いた窓が大きくなりやすいことだ。

マンション、それもタワー形状のマンションでは、窓を設置できる面が限られる。一戸建てであれば、建物の4面に窓を設置できる。板状で横長のマンションならば、角住戸以外でも2面に窓を設置可能。バルコニー側と共用廊下側の2面に窓を付けるわけだ。

これに対し、窓を設置できる面を求めにくいのがタワー形状のマンション。角住戸以外、1面にしか窓を設置できないケースが多い。

というのも、共用廊下が内廊下になる場合、共用廊下側に窓を設置できず、窓があるのはバルコニー側だけ、となってしまうからだ。

1面にしか窓を設置できないため、その窓からできるだけ多くの光を採り入れようとする。それで、窓が大型化。大きな窓が南を向いていると、日光が入りやすく、夏は室温が大きく上がりやすいわけだ。

もうひとつの理由として、超高層マンションには前を遮る建物が生じにくいことを挙げるべきだろう。

プロフィール

櫻井幸雄

年間200件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。・公式サイト ・書籍/物販サイト

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