コラム

「男が持つ邪悪性をドキュメントしてきた」現代を代表する戦争写真家クリストファー・モーリス

2020年01月16日(木)14時10分

その後、フィリピンのクラーク米空軍基地のセレモニーで、撮影中のフォトジャーナリストに遭遇する(当時モーリスと父親は基地の近くに住んでいた)。その時、モーリスは初めて、彼が今まで見てきた戦争写真は兵士によって撮影されたものではなく、一般市民であるフォトジャーナリストによって撮影されたものだと気付いた。それが子供時代のモーリスを戦争写真家へと駆り立てる大きなきっかけになったという。

そんな彼に、戦争写真家として、その長いキャリアを通して、何を伝えたかったのかを聞いてみた。同年代の写真家として、同じ戦場で時に肩を並べて被写体を追いかけたこともある者として、確認したかったからだ。その答えは「写真家」という職業そのもののアイデンティティーにもなると思った。

すると、こんな答えが返ってきた。

「自分の(長年の)ライフワークを見直すと、男が持つ邪悪性をドキュメントしていると実感する。すべての男がそうでないことは知っている。でも、30年以上のキャリアの大半を通し、絶対的な恐怖を無実・無関係の者に与えながら、他の男たちを殺そうと試みてきた男たちを、基本的にドキュメントしようとしてきた」

なぜか動詞の語彙が確定的なものではなかったが、分かるような気がする。写真家は――いや、戦争写真家は、戦争というものを直接的に追っているように見えるが、その本質は結局、人間の性(さが)を本能的に追うことになるからだ。それは時として、あまりにも得体の知れないものなのである。

近年モーリスは、戦争や政治以外にも、ファッション写真やヌード写真も撮影し始めている。ファッション界のある人物からのアドバイスで、自身の写真を異なった方向に進化させるために始めたという。その代表作は「The Night Shadows」。ユングの心理学的な方法で男たちの欲望のシンボルを表わそうとしたものだ。

そして、そうした作品もまた、男たちの持つダークネスを伝えようとするものなのだと。

今回紹介したInstagramフォトグラファー:
Christopher Morris @christopher_vii

20200121issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
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2020年1月21日号(1月15日発売)は「米イラン危機:戦争は起きるのか」特集。ソレイマニ司令官殺害で極限まで高まった米・イランの緊張。武力衝突に拡大する可能性はあるのか? 次の展開を読む。

プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

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