コラム

ヌード写真にドキュメントされた現代中国の価値観

2019年07月17日(水)11時50分

同時に、混乱と孤独も抱擁している。もちろん、それは被写体たち自身が中国のマジョリティの価値観――ヤンの言葉を借りれば、安定した仕事、あるいは30歳までに結婚して子供を産まなければいけないというような価値観――の外側で生きていることに起因している。

実のところ、この「Girls」シリーズは少なからずヤン自身のメタファーでもある。彼女自身、思春期にそうした混乱と孤独の感情を抱いていた。それを探求し、自身の問題に対する答えを見つけるために写真を撮り始めたという。また、メインストリームに属さない他の多くの女性たちと、そうした感情をよりシェアするためでもあった。

その結果、「Girls」シリーズの作品は、ヤン自身のセラピーになっただけでなく、中国の新たな社会層を見事にドキュメントするものになった。作品がはらむ孤独や混乱の匂い、それに被写体自身が選んだ、不安でも自由な道に生きるという決意と自信。それらが二律背反的に重り合い、独特の心地よい緊張感を作品に漂わせているのである。

もちろん、その底流には、中国に流れる、いやアジア諸国の多くに存在する「女性たるものはこうあるべきだ」という時代遅れ的な"女らしさ"に批判的なメッセージを送りながら。

親近感も作品の中に強く存在している。それには理由がいくつかあるが、1つは既に述べたように、ヤン自身が写真に投影されていることだ。もう1つは、被写体の多くの女性が彼女の知り合い、あるいは友人の友人だったりすること。だが、時として、街で見つけた見知らぬ人にモデルになってもらうこともあるという。実際、作品の中に見られる親近感は、ヤンの被写体との撮影アプローチに大きく起因している。

「被写体とは撮影前に多くの時間を費やす。それにより彼女たちの真の内面をつかむことが可能になる」と、ヤンは答える。

ヤンのポートレートの撮影は基本的にフィルムだ。その理由も、もっと真理を探ろうという彼女の写真哲学から来ている。ヤンは言う。

「(シャープさと曖昧さの属性を同時に含む)フィルムでの撮影は(被写体を)記録するのに最も正直な方法だから。それは、女性たちの本当の姿を見せてくれるから」

今回紹介したInstagramフォトグラファー:
Luo Yang @luoyangggg

20190723issue_cover-200.jpg
※7月23日号(7月17日発売)は、「日本人が知るべきMMT」特集。世界が熱狂し、日本をモデルとする現代貨幣理論(MMT)。景気刺激のためどれだけ借金しても「通貨を発行できる国家は破綻しない」は本当か。世界経済の先行きが不安視されるなかで、景気を冷やしかねない消費増税を10月に控えた日本で今、注目の高まるMMTを徹底解説します。


ニューズウィーク日本版 健康長寿の筋トレ入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年9月2日号(8月26日発売)は「健康長寿の筋トレ入門」特集。なかやまきんに君直伝レッスン/1日5分のエキセントリック運動

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ政権、学生・メディア向けビザの期間短縮へ 

ワールド

日産、7月の世界販売が16カ月ぶりに前年超え 中国

ワールド

スイスGDP、第2四半期は前期比+0.1% 米関税

ワールド

核燃料再処理巡る協議で米国と合意=韓国外相
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    「どんな知能してるんだ」「自分の家かよ...」屋内に侵入してきたクマが見せた「目を疑う行動」にネット戦慄
  • 3
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪悪感も中毒も断ち切る「2つの習慣」
  • 4
    【クイズ】1位はアメリカ...稼働中の「原子力発電所…
  • 5
    「ガソリンスタンドに行列」...ウクライナの反撃が「…
  • 6
    「1日1万歩」より効く!? 海外SNSで話題、日本発・新…
  • 7
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 8
    イタリアの「オーバーツーリズム」が止まらない...草…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    「美しく、恐ろしい...」アメリカを襲った大型ハリケ…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 3
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 4
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 5
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 6
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 7
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 8
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 9
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 10
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 10
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story