コラム

『スター・ウォーズ』クワイ=ガン・ジンの言葉を写真哲学に

2019年02月13日(水)16時00分

From Jose Luis Ollo @joseluisollo

<「牛追い祭」の街、スペインのパンプローナを撮り続けるホセ・ルイス・オリョが生み出す、時が止まったかのような世界>

自らの生まれ故郷、それも長年住み続けている場所を現在進行形で切り取り続けることは、写真家にとってかなり難しいことかもしれない。その空間を他人より知っていて当たり前という自負が、しばしば独りよがりの写真や気負いすぎの写真を生み出してしまうからだ。あるいは逆に、意識しすぎて表面的なありきたりの作品に陥ることもある。

にもかかわらず、多くの写真家が自らの故郷や街を撮り続けている。今回取り上げるInstagramフォトグラファーもその1人だ。スペインの北部、ピレネー山脈の西にある小都市パンプローナで生まれ育ったホセ・ルイス・オリョ、52歳である。

確たる写真哲学をオリョは持っている。インスタグラムのプロフィールに書かれている 「Your focus determines your reality(何に焦点を当てるかで自身の現実が決まる)」だ。『スター・ウォーズ』のジェダイの騎士、クワイ=ガン・ジンの言葉を引用したらしい。

彼によればこういうことだ。何をやりたいか、望んでいるかを決めなければならない。自身の関心に最大の注意を払わなければならない。それが写真家のスタイル、テイストを築き上げ、運さえ開いてくれる――。

彼が選んだ最大のフォーカス、すなわち関心事は、言うまでもなく、彼自身の周りにあるパンプローナの日常だ。中世の街並みや城壁の面影を色濃く残したストリート、それを保ちながら近代化した都市の中で暮らしている人々の生活だ。

光と構図の扱い方が巧みだ。柔らかい斜光や逆光を多用している。カメラアイ、とりわけ遠くにある、あるいはファインダーの中で小さく見える被写体に対しての見極め(セパレーション感覚)が優れている。そのため、何気ない写真でさえ印象的だ(例えば下の、城壁の上に立って下を眺めている男性の写真)。

カメラの選択と作品の見せ方も効果的だ。大半はiPhoneで撮影した白黒写真で、Hipstamatic(ヒップスタマティック)というアプリを使っているが、意図的に焦点が甘くなるようなデジタルフィルムやレンズを前もって選んで撮影し、作品を構成している。

プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

NATO事務総長、国防費拡大に新提案 トランプ氏要

ワールド

ウクライナ議会、8日に鉱物資源協定批准の採決と議員

ワールド

カナダ首相、トランプ氏と6日会談 ワシントンで

ビジネス

FRB利下げ再開は7月、堅調な雇用統計受け市場予測
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    金を爆買いする中国のアメリカ離れ
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story