コラム

『スター・ウォーズ』クワイ=ガン・ジンの言葉を写真哲学に

2019年02月13日(水)16時00分

子供時代に親しんだプラスチック製のトイカメラの感覚――不完全さの中にある美に、今でも魅惑され、それを再現したいかららしい。だが、それが彼の写真センスと合わさって、ヨーロッパなら他の多くの都市でも見られそうな風景を、彼独自のテイストに作り変えている。作品の底流に詩的な感覚を漂わせ、時が止まったかのような世界を作り出しているのだ。

とはいえ、その感覚はある種、外部の人間が抱くパンプローナのイメージと矛盾するかもしれない。なぜならパンプローナは、かつてバスク人の王国として名を馳せたナバラ王国の首都だった。中世からつい最近に至るまで、少なからず歴史に翻弄されてきた街だからだ。

また、パンプローナは、サン・フェルミン祭(俗に「牛追い祭」と呼ばれる)が7月に開かれ、数えきれないほどの観光客が訪れ、熱狂と喧騒の街になることでも知られている。同時にここ最近は、その反動で反闘牛運動も大きくなってきている街でもある。

にもかかわらず、冒頭で触れたように、オリョの作品には気負って誇張したようなタイプの写真がほとんど見られない。反闘牛の抗議運動の写真でさえ、時として静かで官能的に捉えている。

だが、そういった点についても、オリョが意識的にしろ無意識的にしろ、さらにフォーカスしようとしていることに起因しているのかもしれない。

つまりは、こういうことである。重要でなさそうに見える、でも何か意義のあることも隠されているかもしれない、ありきたりの瞬間に惹かれてしまう。そうした瞬間を写真の魔術――例えば、光や構図、不完全さの中にある美しさだ――を使って、結果的に解き明かしていきたいのだ、と。

今回紹介したInstagramフォトグラファー:
Jose Luis Ollo @joseluisollo

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プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

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