コラム

意外にも「友好的」だったトランプ・マムダニ会談

2025年11月26日(水)16時00分

敵対していたはずの2人の笑顔の会談は全米をざわつかせた Yuri Gripas/Pool/Sipa USA/REUTERS

<ニューヨーク市民が生活費高騰と雇用不安定化に苦しむ現状については、両者の認識が一致したようだ>

ニューヨークのマムダニ次期市長に対しては、市長選の前からトランプ大統領は敵視するコメントを繰り返していました。「ニューヨークに共産主義は不要」だとか、「マムダニ氏が就任したら市への補助金をカットする」といった発言でした。また、共和党の議員団からは、イスラム教徒であるマムダニ氏が、一貫してイスラエルのガザ攻撃に批判的であることを取り上げて、米国市民権を剥奪すべきだなどという発言も出ていました。

一方で、マムダニ氏の側も、トランプ政権に対しては徹底批判の立場を貫いていました。11月4日の市長選では、トランプ氏が変則的ながら民主党穏健派で無所属立候補していたアンドルー・クオモ前知事を支援、マムダニ氏とは一騎打ちの様相となっていたのです。

そのマムダニ氏は、21日金曜日にホワイトハウスを訪問して、トランプ氏と会談しました。その結果は、意外にも友好的だったようです。このニュースが、両者が笑顔を見せた写真とともに各社から配信されると全米を騒がせました。

例えばニューヨーク・タイムスやABCテレビのように、「友好的な」会談の後も、マムダニ氏がトランプ氏のことを「ファシスト」と言っているとか、トランプ氏の側でもマムダニ批判を緩めていないという報道もあります。そうかもしれませんが、両者が一旦は友好的に会談したというのは、事実としては重たいものがあります。少なくとも大統領としては、当選した次期市長の就任を認めた形だからです。

切実な市民の生活苦の問題

具体的な会談の内容については特に明かされていません。一部の報道によれば、元々はニューヨーク市内のローカルな不動産屋であったトランプ氏に、マムダニ氏が同市の独特な許認可体制を突破する際のノウハウについて教えを乞うたようです。廉価な補助金付き住宅の建設を進めようとしても、環境などの規制に直面することが多く、そこを回避する術をトランプ氏に教わったということのようです。

それはともかく、とりあえず言われているのは、両者は市民の生活における affordability(アフォーダビリティ)の問題で一致したという点です。このアフォーダビリティという言葉は、日本語では「お手頃感」と訳されるようですが、ニュアンスはもっとずっと切羽詰まったものです。

つまり生活費が住宅にしても食費や交通費にしても、高騰する中で経済的に「手が届かなく」なっているのを、「手が届く」ようにする、これがアフォーダビリティで、日本語では「生活苦」とか「生活防衛」といった切実感を伴う言葉に近いです。

もちろん、トランプ大統領は極端なまでの減税と小さな政府を政策として掲げていますから、マムダニ氏の公約に賛成したわけではないようです。ですが、ニューヨークの市民が生活費の高騰と、それに反比例するかのように雇用の不安定化が進む現状について両者の認識が一致したのであれば、その意義は大きいと思います。現状への不満と将来への不安が、若者層と貧困層を中心に市内には渦巻いているのは事実で、少なくともこの問題を理解することでは、最左派の政治家と最右派の政治家が一致したということになります。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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