コラム

アメリカのストーカー対策、日本との違いを考える

2025年09月03日(水)14時40分

日本でも性犯罪等の再犯を防ぐGPS装着の実現が望まれる Bernard Patrick/ABACA/REUTERS

<GPS追跡などの厳罰化や医師・カウンセラーを含めた対応は日本でも早急な実現が必要>

日本でもさまざまなタイプのストーカー事件が明るみに出ています。特に今回の神戸での事件は、面識のない男性にいきなり刺殺されるという展開と、実行犯が類似の前科2犯であったことなどから社会に衝撃を与えています。また、世田谷での刺殺事件のケースは、あくまで憶測ですが、GPSが装着される韓国を避けて、わざわざ追跡されない日本を犯行の場として選んだ可能性もあり、だとすれば制度の甘さを突かれた格好です。

ストーカーの問題は、アメリカの場合は1970年代から多く報告されるようになり、厳罰化と対策の徹底という意味では、日本よりはるかに先行していると思います。制度ということでは、アメリカだけでなく、カナダやイギリスなど英語圏だけでも膨大な情報が公開されていますので、日本も先行事例を参考に整備を急がなくてはなりません。


ストーカー対策の体制ということでは、原則として3つの角度から専門家が関与し、また専門家同士が連携することが重要だとされています。3つとは、警察などの法執行機関、医師による治療のアプローチ、そしてカウンセリングです。多くの専門家が指摘しているのは、ストーカーといっても大きく分けて5つの類型(過去の経緯に固執、一方的な思慕、病的な認知の歪み、支配欲、暴力的)があるといいます。この5類型には、それぞれに3つの角度からの対応が異なるということで、必要な対策を取るにはチームを組んで事例に対応することが重要ということです。

ここまでは原則論であり、日本でも制度を整備していく上では真剣に検討することが必要な項目ばかりだと思います。その一方で、文化や社会の違いのために、そのまま導入するのではないにしても、コンセプト的には参考になる点として、以下のような指摘も可能と思います。

大都市の集合住宅には「ドアマン」という常駐警備員

例えば、地域社会だけでなく教育機関の対応を進めることも考えられます。アメリカの場合、各大学に相談窓口を設けて、事例に対してはそれこそ3つの分野が連携して対応するようにしています。高校の段階では、例えば悪質性のないケース、「親密な関係が破綻した場合に、本人たちが軟着陸するための支援」については、高校生の委員が同年代の実例に対応しながら専門的なカウンセリングを学ぶといった試みもされています。

社会人の場合ですが、カジュアルな服装で通勤するというのもあります。ビジネス向けの服装は印象が強すぎて危険なので、オフィス内や会議の際は着用するものの、通勤や移動の際には個性を殺したスポーツウェアにスニーカーという服装に変えるというのは、以前は快適性の追求だったものが、今では一種の安全対策になっているようです。

大都市の公共交通機関については、例えばニューヨークの場合ですと、コロナ禍で治安が悪化したので誰もが時間帯や混雑具合を注意する習慣が戻っています。混雑についていえば、混んでいる方が安全であり、ガラガラの車両は避けるのが当然ということになっています。それよりも、地下鉄の治安が心配なので、自転車通勤という人も依然として多いです。

また、郊外のクルマ社会の場合、自宅への出入りにはセキュリティゲートを置いて、住民以外の車両は侵入できないようにするケースも多いです。一方で、大都市など徒歩が当たり前のコミュニティーでは、集合住宅にはドアマンという常駐警備員を置くことが多いです。ドアマンには、住民は必ず挨拶してお互いの信頼関係を作り、一緒になって不審者をチェックするようにしています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

肥満治療薬のノボ・ノルディスク、9000人削減へ 

ビジネス

フランス経済、第3四半期も0.3%成長へ 安定維持

ワールド

米で拘束の労働者が出国へ、現代自工場の不法就労 日

ワールド

チュニジア沖でガザ支援船にドローン攻撃、2日で2度
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題」』に書かれている実態
  • 3
    エコー写真を見て「医師は困惑していた」...中絶を拒否した母親、医師の予想を超えた出産を語る
  • 4
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 5
    富裕層のトランプ離れが加速──関税政策で支持率が最…
  • 6
    カップルに背後から突進...巨大動物「まさかの不意打…
  • 7
    ドイツAfD候補者6人が急死...州選挙直前の相次ぐ死に…
  • 8
    もはやアメリカは「内戦」状態...トランプ政権とデモ…
  • 9
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にす…
  • 10
    「稼げる」はずの豪ワーホリで搾取される日本人..給…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 4
    眠らないと脳にゴミがたまる...「脳を守る」3つの習…
  • 5
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 6
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 7
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 8
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 9
    「稼げる」はずの豪ワーホリで搾取される日本人..給…
  • 10
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story