コラム

アメリカのストーカー対策、日本との違いを考える

2025年09月03日(水)14時40分

日本の場合に難しいと思うのは、「初対面同士の会話はタブーで、無視がデフォルト」になっているということです。狭義の暴力予備軍だけでなく、上下関係の認知が歪んでいて暴言を頻発するような人物の被害から身を守るためで、現在はかなり徹底しています。この点に関して言えば、アメリカの場合は初対面でも「目が合ったら会釈」であるとか、場合によったら時候の挨拶をして「お互いに危険のないことを確認する」習慣があります。

もちろん、異性間の場合ですと、沈黙の恐怖を避けるための雑談のつもりが、片方が距離感を勘違いする危険もあります。ですが、危なければ華麗にかわす、誤解を招くような態度は避ける、などの駆け引きを込めたコミュ力を誰もが意識して生活していると思います。


反対に、不自然な沈黙を共有するというのは、危険性を増すという感覚を持っている人も多いです。異性間などのストーカー対策だけでなく、銃犯罪なども含めた危険から身を守るためにも「沈黙より、挨拶や雑談で危険の有無を確認もしくは抑止」という習慣は、明らかにあります。アメリカ人は基本的にフレンドリーというのは正しいのですが、その裏にはそうした現実的な側面もあるのです。

初対面でも挨拶をする習慣があれば、平時には社会は明るくなる効果があるし、問題のない人を無視したり、不快にさせることも減ります。ただ、この点については文化の問題があるので、日本でもすぐに追随すべきだとは一概には言えません。それはともかく、GPS追跡を含めた厳罰化と警察+医師+カウンセラーの3者による協力体制というのは、やはり日本の場合についても、早急に実現する必要があると思います。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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