コラム

日本を衰退に追いやる「中抜き」経済を考える

2024年02月07日(水)15時00分
事務

中間業者が入ればその分だけ事務経費が固定費としてかさんでくる nampix/Shutterstock

<「事務部門の維持費」を効率化できれば、現場の収入も上げられ、人手不足の解消にも繋がる>

近年「中抜き」という言葉をよく耳にするようになりました。例えば、能登半島地震で避難をしている人に配られる弁当が、貧相な内容なので「中抜き」されているのではないか、という議論がありました。弁当といえば、コロナ禍の時期にビジネスホテルに強制隔離された入国者に配られる弁当も貧相だと問題になったことがあります。この時はハッキリと国が払う1日2700円の予算の中から、ホテル側が経費として700円を差し引いていたということが明るみに出ていました。

コロナ禍の期間中は、例えば入国時の検疫に大量の人員が動員されたり、高額なPCR検査が大規模に実施されたりしましたが、これも非正規雇用者や医療従事者には国から直接報酬は払われませんでした。国はあくまで契約した派遣業者や場合によっては旅行代理店などに、まとまった支払いをするだけで、こうした法人が得る利益のことも「中抜き」だと非難されていました。

 
 

より構造的なのは、今回2024年問題としてクローズアップされている、運送業や建設現場の問題です。トラック輸送の仕事は、ドライバーが直接荷主から報酬を受け取るのではなく、間に多くの中間業者が介在しており、ドライバーの報酬は低く抑えられています。建設現場での職人への報酬にも似た構造があります。

まさに、日本経済は「中抜き」経済と言っても良さそうです。では、本来は生産者やサービス提供者に払われるべき報酬を減らし「中抜き」された利益はどこへ行くのかというと、中間業者の経営者やオーナーなどが「山分け」して豪華な生活をしているのではありません。

「事務部門の維持費」という固定費

中間業者、例えばホテルのマネジメント会社、人材派遣業者、運送業者、ゼネコンや一次下請、問屋、商社などは、それぞれ企業としての体裁を維持しています。ですから、固定費として、毎月一定の費用を負担しています。その中でも、総務、経理、人事、営業管理、顧客管理、契約書管理などの事務部門は、一定の業務量があり、そうした部門を維持する費用は、景気の善し悪しにかかわらず負担しなくてはならない固定費となっています。

この構造、経済のあらゆる段階に「事務部門の維持費」という固定費がかかるために、現場の報酬が上がらない、これが「中抜き経済」の大きな問題点です。「中抜き」のカネが流れる先の事務部門も、決して豊かでないし、何よりも間接部門の事務作業だからといって定型的で楽な仕事ではありません。様式やハンコを伴う複雑な規則に縛られストレス満載の業務であることが多いと思います。制度の全体としては、人々を決して幸福にしてはいません。

更にこれに加えて、近年では現場の人材不足という問題が出てきています。トラックドライバー、バスドライバー、建築現場の職人などの現場仕事では、極端な人手不足が指摘されており、このままでは社会が崩壊する瀬戸際に立たされています。このような現場における人手不足はやがて全産業に及ぶでしょう。

ということは、社会として改革の方向性はほぼ絞り込まれると思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、バイデン氏のFRB人事巡り調査指示 自

ビジネス

M&A市場は来年も活況、米ゴールドマンCFOが予想

ワールド

米国務省コメント、強固な日米同盟示すもの=中国軍の

ワールド

マスク氏、DOGEは「少し成功」 復帰否定
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「財政危機」招くおそれ
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 8
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story