コラム

トランプを「右から叩く」デサンティスの戦術に活路はあるのか?

2023年05月31日(水)11時30分

デサンティスはトランプよりさらに保守的な姿勢を見せている Scott Morgan-REUTERS

<共和党候補のうち支持率で断トツトップのトランプに対抗するため、デサンティスはさらに保守的な姿勢を打ち出している>

フロリダ州のロン・デサンティス知事は、24日水曜にツイッターの音声配信という形で、2024年の大統領選に立候補すると正式に宣言しました。形としては、一方的な演説ではなくイーロン・マスク氏との対談という形態でしたが、配信にトラブルがあり、最初から「コケた」感じのスタートでした。

有力候補として待望論のあったデサンティス候補ですが、当面は共和党内の予備選で勝って統一候補となるのが最優先事項です。ところが、現時点における共和党内の支持率レースでは、ドナルド・トランプ前大統領が圧倒的な差をつけて1位を走っています。政治サイト「リアル・クリアー・ポリティクス」が公表している「主要な世論調査の平均値(5月22日までの14日間の集計)」では、

▽1位 ドナルド・トランプ......53.2%
▽2位 ロン・デサンティス......22.4%
▽3位 ニッキー・ヘイリー......4.4%
▽4位 マイク・ペンス......3.8%

となっており、トランプが過半数を超えて支持されている一方で、デサンティスはその半分以下という支持率に甘んじています。個別の調査の中では、特に保守色が強いと言われている調査会社「ラスムーセン・レポート」の場合、トランプ62%に対してデサンティス17%と、実に45ポイントもの差がついています。

44歳という若さは魅力

ここまで差をつけられているデサンティス候補ですが、ではどうして待望論があるのかというと、それは「本選では勝てそうな候補」という見方があるからです。まず、44歳という若さは魅力であり、それだけでバイデンとの一騎打ちには有利だという見方があります。また、選挙の敗北を認めず暴力行為を誘導したり、スキャンダルまみれだったりのトランプと比較すると、中道無党派層の票を取り込めるという意見もあります。

実際に、デサンティス候補は出馬宣言を行った直後の24時間だけで、820万ドル(約11億4000万円)の政治献金を集めたと言われていますし、それ以前に、スーパーPAC(独立した支持団体)などでは1億1000万ドル(約154億円)を集めているとも言われています。こうした集金力の背景には「勝てる候補」という期待感があると考えられます。

では、デサンティスは、どうやってトランプに勝つのかというと、本来であれば「自分の若さ」に加えて「より常識的」で「軍事外交、内政に経験がある」ということを訴える――常識的にはそんな作戦を取ることが考えられます。

ところが、現時点ではデサンティス候補は、「勝てる候補」という面を強調する作戦は取ってはいません。そうではなくて、トランプ候補の立ち位置に対して、より保守的なイデオロギーを繰り出す作戦を取っています。つまり「十分に右であるトランプ」を「さらに右から叩く」というアプローチです。具体的には、

・「コロナ禍に対して、トランプは感染症の専門家の助言に従って感染対策を行うなど、リベラルに屈したから許せない」
・「妊娠中絶の全国レベルでの禁止に対して、トランプは熱心でない」
・「大企業がリベラルの価値観に染まっている問題に対して、トランプは徹底して戦っていない」

というような主張を繰り出しています。3月に発売した自伝『自由であることへの勇気』で述べているように、「感染拡大期にマスクとワクチンの義務化を『禁止』」したとか、「LGBTQの権利を重視するディズニー社と戦った」というようなフロリダで行った政策を掲げて「アメリカ全土をフロリダ化する」という言い方もしています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

9月の米雇用、民間データで停滞示唆 FRBは利下げ

ビジネス

NY外為市場=ドルが対ユーロ・円で上昇、政府閉鎖の

ワールド

ハマスに米ガザ和平案の受け入れ促す、カタール・トル

ワールド

米のウクライナへのトマホーク供与の公算小=関係筋
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 4
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 5
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 6
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 7
    1日1000人が「ミリオネア」に...でも豪邸もヨットも…
  • 8
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 9
    AI就職氷河期が米Z世代を直撃している
  • 10
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 1
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 8
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 9
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 10
    琥珀に閉じ込められた「昆虫の化石」を大量発見...1…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story