コラム

「サイエンスは暗記物ではない」ノーベル賞物理学者、真鍋博士の教育論

2022年01月14日(金)16時40分

気象学のような「古典物理学」がノーベル賞で評価されるのは珍しいという(昨年12月に米ワシントンで受賞メダルを受け取る真鍋博士) Kevin Lamarque-REUTERS

<大学入試対策の結果として、日本では文系志望の学生が物理、化学を敬遠するようになってしまった>

大学入試の季節がやってきました。今年の場合は受験生にとっても、実施側の大学にとっても、寒波とコロナ禍への対応が特に大変だと思います。大学入試と言えば、ノーベル物理学賞を受賞された真鍋淑郎博士と対談した際に、博士が入学試験や科学教育について語っておられたことが気になっています。

この対談では「問題を提起する能力が日本の教育には必要」だという議論がされて、このメッセージを中心に朝日新聞の記事でも取り上げられています。

記事の中でも真鍋博士が「入学試験のための勉強」を批判されているコメントが紹介されていますが、対談の中ではもう一つ「サイエンスは暗記物ではない」という重要な提言もされていました。入試の季節にあたって、この博士のメッセージについて考えてみたいと思います。

真鍋博士の専門は気象学ですが、国際的な学問のジャンル分けとしては「地球物理学」になります。この地球物理学は、同じ物理学の中でも「理論物理学」ではなく「応用物理学」に属しており、同時に「古典物理学」に属しています。ちなみに「古典物理学」と言うのは、ここでは「原子や分子より極小の量子を扱う量子論」と、「相対性理論」は含まない物理学という意味です。

日本では気象学は地学

真鍋博士によれば、現代のノーベル物理学賞というのは量子論や相対性理論以降の現代物理学の成果を対象としたものが主で、自分のように古典的な物理学を扱っている研究が認められるのは珍しいとおっしゃっていました。

例えば、今回の受賞が「完全なサプライズだった」というのは、2018年にノーベル賞と同格と言われている「クロフォード賞」を既に受賞していたからということもありますが、同時に「古典物理学」がノーベル賞を取るということは想定していなかったという意味でもあるそうです。

一方で、日本の高校生にとっては気象学は物理には属していません。地学という特殊な科目の一部となっていて、天文学、地質学と一緒に学ぶことになっています。真鍋先生によれば、その結果として「サイエンスが暗記物になっている」のは問題だというのです。

真鍋博士によれば、気象学とは、地球の大気の動きを運動方程式を使ってシミュレートする学問であり、物理の基礎と数学という道具がなければ理解は難しいし、「何故?」という好奇心をバネに説明や発見を試みることもできないわけです。運動方程式を抜きにした天文学、化学の知識を抜きにした地質学というのも同様です。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

欧州委、XのAI「Grok」を調査 性的画像生成巡

ワールド

中国、春節中の日本渡航自粛勧告 航空券無料キャンセ

ワールド

OPECプラス有志国、3月の据え置き方針維持か 2

ワールド

インドネシア中銀理事に大統領のおい、議会委員会が指
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 2
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰に地政学リスク、その圧倒的な強みとは?
  • 3
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 4
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 5
    「外国人価格」で日本社会が失うもの──インバウンド…
  • 6
    「楽園のようだった」移住生活が一転...購入価格より…
  • 7
    「20代は5.6万円のオートロック、今は木造3.95万円」…
  • 8
    私たちの体は「食べたもの」でできている...誰もが必…
  • 9
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投…
  • 10
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 1
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 4
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 5
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 6
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 7
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 8
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 9
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 10
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 7
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story