コラム

バイデン政権のマスク緩和令で、混乱広がるアメリカ社会

2021年05月19日(水)14時00分

バイデンはマスク着用に関する新たなガイドラインを発表した Kevin Lamarque-REUTERS

<ワクチン接種を完了していない人口が過半数残るなかでのマスク緩和令には、「時期尚早」という声も>

5月13日、ジョー・バイデン米大統領は会見して、CDC(米疾病予防管理センター)が示した、新型コロナウイルスに関する新しいガイドラインを説明しました。この新しいガイドラインというのは、

1、新型コロナウイルスワクチンの接種を完了すれば、屋内外を問わず、マスクを着用しなくてもいい。

2、ただし、バスや飛行機、病院など混雑した屋内では引き続きマスク着用が求められる。

3、ワクチン接種完了者には「ソーシャル・ディスタンス」の確保も求めない。

というものです。バイデン大統領は、このガイドラインを発表するのと同時に、自らがマスクを外すパフォーマンスまでやっていました。

この「マスク緩和」ですが、ワクチン接種が進み、その結果として新規感染者数、重症者などの指標が大きく改善したことが背景にはあります。接種率については、一時の勢いはなくなったものの、累計では「完全に接種を完了」つまり、2回必要なワクチンは2回、1回で良いものは1回の接種を完了した人は1億2500人(人口の38%)に達しています。

まだまだ遠い「集団免疫」への道のり

そうは言っても、いわゆる「集団免疫」、つまり免疫を持つ人口が大きな壁となって感染収束が視野に入ってくるための接種率として必要とされる、60〜70%という水準にはまだまだ道のりは遠いのは事実です。したがって、今回の「マスク緩和令」については、時期尚早という声もあります。

ただ、バイデン政権にとっては、ワクチン接種を猛烈な速度で実施して、最終的には実体経済を力強く回復させなくてはなりません。これに失敗すると、2022年の中間選挙においては「トランプ主導の共和党」に勝利を許してしまい、政局は再び混沌としてしまうからです。

そんななかで、この時点、つまりワクチン接種を完了していない人口が過半数残る中での「マスク緩和令」は、早速、混乱を招いています。

まず、いくら全国レベルでのガイドラインを提示したといっても、具体的な規制というのは各州に任されています。その一方で、今回の大統領の宣言を受けて、全国チェーンの大手企業などは企業としての方針を発表しました。真っ先に「マスク緩和」を打ち出したのは、量販店のウォルマート、会員制量販店のコストコ(コスコ)、独自ブランド商品中心の食料品店トレーダー・ジョーズという、大手3社でした。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ネクスペリア中国部門「在庫十分」、親会社のウエハー

ワールド

トランプ氏、ナイジェリアでの軍事行動を警告 キリス

ワールド

シリア暫定大統領、ワシントンを訪問へ=米特使

ビジネス

伝統的に好調な11月入り、130社が決算発表へ=今
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 10
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story