最新記事

ヘルス

医師が「空間除菌グッズは使うな」と警告する理由 気休めにしては危険すぎる

2021年5月17日(月)12時53分
名取 宏(内科医) *PRESIDENT Onlineからの転載

「健康に何となく良さそう」と思わせる空間除菌グッズはむしろ健康被害をもたらす場合も *写真はイメージです Hakase_ / iStockphoto

「空間除菌」をうたう商品がたくさん販売されている。しかしダマされてはいけない。内科医の名取宏氏は「空間除菌グッズは限定された環境下でしか効果を発揮できず、除菌能力は低い。むしろ咳や呼吸困難などの健康被害も出ている。気休めとして使うものとしては危険すぎる」という──。


「空間除菌」グッズの位置付けは医薬品ではなく雑貨

新型コロナウイルス感染症が流行してすでに1年以上が経ちました。この原稿を書いている2021年4月上旬の時点では、緊急事態宣言は解除されたものの、各地で感染者の増加が見られます。ワクチンの接種もはじまっていますが、接種者の割合は人口の1%にも達していません。手洗い、マスク着用、三密の回避、会食の自粛といった感染対策を続けることが必要です。

なかには、ちょっと怪しい感染対策もあります。空中に消毒薬を拡散させることで空気を消毒すると称する、いわゆる「空間除菌」は、しきりと宣伝されています。据え置きタイプ、首から下げるタイプ、スプレータイプなどさまざまな商品が販売されていますが、空間除菌によって新型コロナウイルスの感染を予防できるという臨床的証拠はありません。海外も含め、空間除菌を推奨している公的機関もありません。厚生労働省のサイトには、

「消毒剤や、その他ウイルスの量を減少させる物質について、人の眼や皮膚に付着したり、吸い込むおそれのある場所での空間噴霧をおすすめしていません」 「これまで、消毒剤の有効かつ安全な空間噴霧方法について、科学的に確認が行われた例はありません。また、現時点では、薬機法に基づいて品質・有効性・安全性が確認され、「空間噴霧用の消毒剤」として承認が得られた医薬品・医薬部外品も、ありません」(※1)

と書かれています。

ではいったい、空間除菌グッズは、医薬品や医薬部外品でなければ何なのでしょうか。それは「雑貨」です。大手メーカーの宣伝文句をよく見ると「新型コロナの感染予防に効果がある」とは一言も書かれていません。

(※1)新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について(厚生労働省・経済産業省・消費者庁特設ページ

「ウイルスを99%除去できる」は本当か

雑貨なのに感染予防の効果効能をうたうと法律違反になるからです。新型コロナの流行以前から、空間除菌グッズを販売する会社は、景品表示法に基づいて消費者庁からしばしば措置命令を受けています。消費者にはあたかも感染予防効果があると誤認させる一方で、消費者庁からはギリギリ怒られないように、広告表現が工夫されていてある意味感心します。

メーカーのサイトには「ウイルスを99%除去できる」などといった宣伝文句が書いてあります。空間除菌グッズに空気中を漂うウイルスや細菌を不活化させる一定の働きがあるのは本当です。

しかし、実験室の条件下でウイルスを除去できても、実際に使用される環境下で性能を発揮できなければ意味がありません。冬の屋内を想定した気温23度、相対湿度30%の環境下で、「クレベリンG(大幸薬品)」を用いた実験では、空中浮遊インフルエンザウイルスの不活化の効果は確認されませんでした(※2)。

「ウイルスを99%除去できるから新型コロナの感染予防にも役に立つのだろう」と誤解するのは消費者の勝手というわけでしょう。

(※2)西村秀一、ウイルス不活化効果を標榜する二酸化塩素ガス放散製剤の実用性の有無の検証―冬季室内相当の温湿度での空中浮遊インフルエンザウイルスの不活化について―、日本環境感染学会誌/31巻(2016)5号
今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、ソマリランドを初の独立国家として正式承

ワールド

ベネズエラ、大統領選の抗議活動後に拘束の99人釈放

ワールド

ゼレンスキー氏、和平案巡り国民投票実施の用意 ロシ

ワールド

ゼレンスキー氏、トランプ氏と28日会談 領土など和
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    赤ちゃんの「足の動き」に違和感を覚えた母親、動画…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中