コラム

日本の電波行政を歪めている真犯人はだれか?

2021年02月25日(木)15時20分

菅首相の長男らによる総務官僚への接待は国会で大きな議論に Issei Kato-REUTERS

<ネットで占有率の高い動画サイトやストリーミング・サービスはいずれも外資で、売り上げに対する課税も十分にできていない>

今回の総務省幹部への接待問題では、確かに許認可権のある当局者に対する利害関係者の接待の問題、そしてそこに政治家の親族が絡む公私混同というのは深刻な問題です。重要ではあります。ですが、「電波行政の歪み」という問題を考えるのであれば、本当の問題点は「そこではない」という違和感を覚えます。

この接待問題ですが、非常に単純化するのであれば、問題は2点に集約できます。一連の報道を集約すると、接待した側としては、

「収益の上がらないサービスから電波枠(スロット)を取り上げて、より競争力のある事業者に枠を与えるような競争原理を回避してスロットを守りたい」

「BSもCSも HD(ハイビジョン)化が国策だが、費用がかかるので適用を先延ばしにしてそれでもスロット枠を取り上げられないようにして欲しい」

という要望があったと推察できます。事業者としては必死であり、許認可権を持った官庁に対して何か手を打ちたかったという話の流れは理解できます。その一方で、政治家の親族を介在させるなど、禁じ手を使ってでもアプローチしたかったというストーリーは理解不能です。

露見リスクを管理できないマネジメントのレベルの問題があったのか、リスクを取らねば生き残れないという切迫感があったのか、そのような合理性を超える問題として政治家との関係があったのかは、わかりません。

日本の電波事業の衰退

ですが、「電波行政の歪み」ということを考えた場合、問題の本質はそこではありません。2つの大きな問題があると考えられます。

1つは、BS/CS/地上波というビジネスモデルが危機に晒されていることです。ネットの占有時間がアップしてテレビ離れを起こしているだけでなく、広告収入の落ち込みが追い打ちをかけています。つまり、事業者の側が違法接待をしたり、監督官庁の側では競争原理か既得権益の擁護かなどと争っている場合ではないわけで、そもそも放送事業の全体が衰退している、そこが問題です。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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