コラム

ニューヨークと東京では「医療崩壊」の実態が全く違う

2020年05月14日(木)15時20分
ニューヨークと東京では「医療崩壊」の実態が全く違う

セントラルパークの「野戦病棟」も解体された Andrew Kelly-REUTERS

<感染患者にも非感染患者にも十分な対応ができなかったニューヨークの「医療崩壊」と比べれば、東京の医療体制は十分に「持ちこたえた」と言えるはずだが......>

新型コロナウイルスの感染拡大が続いていた米ニューヨーク州、ニュージャージー州では、5月に入って感染の勢いが明らかに沈静化してきました。それでも、まだ一日ごとの死亡者数は両州ともに200人弱という水準で、日々の定例会見ではクオモ知事もマーフィー知事も厳粛な姿勢で数字を発表しています。

ただ、両州ともに新規入院患者数はピーク時と比較して大きく減り、それとともに臨戦態勢を敷いていたコロナ病床については撤収が進んでいます。例えば、ハドソン川の桟橋に停泊して治療に当たっていた米海軍の病院船「コンフォート号」は4月30日に任務を終了しました。

また、陸軍工兵部隊が突貫工事で臨時病院に仕立て上げた会議場の「ジャビッツセンター」の病床利用も、宗教系の医療団体がセントラルパークに設営した「野戦病院」形式の病床も撤収されました。

ちなみに、この間のニューヨーク、ニュージャージーではまさに「戦時体制」が取られ、まず医師免許のある人は専門に関わらずコロナ対応に回っていました。そればかりか、医科大学院の学生は「繰り上げ」で前線投入、さらに専門外の歯科医も支援体制に組み込まれました。また、外国の医師免許を臨時に「自動的に有効として診療行為への従事を認める」という政令まで出たのです。

NYの「医療崩壊」の惨状

同時に、全国からニューヨーク、ニュージャージー両州の支援のために応援の医師、看護師が集められました。この応援チームについても、任務完了ということで、一部では盛大な「感謝のセレモニー」を経て、それぞれの地元に戻っていきました。

そうではあるのですが、この間の感染のピークにあたっては、病床や医療従事者の不足により救命できる患者の救命ができなかったケースも出ています。それ以前の問題として、無保険者、不法移民などで医療サービスを受けられずに在宅死した例は多数に上っており、明らかに医療崩壊が現実に起きていたと言えます。

また、この5月12日になってニューヨーク州は多くの郡における「緊急手術の再開」を許可しました。と言うことは、コロナ危機のピークに当たっては1カ月以上にわたって、事実上「コロナ以外の疾病」に対する手術は「延期」されていたのです。実際は、一部の病院を「非コロナ病院」として緊急の対応をする計画もありましたが、患者がコロナ感染を恐れて来なかったこともあり、機能していませんでした。

つまり、コロナの患者数が対応可能人数をオーバーして救命が出来なかったケースに加えて、非コロナの患者が、コロナ感染拡大の影響を受けて、十分な治療がされずに亡くなったケースもあったようです。やがて事態の沈静化とともに、事実が明るみに出ると思われますが、こうした状況の全体はまさに医療崩壊と言われても仕方のないものでした。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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