コラム

千葉県の「タレント知事」だけでなく、地域防災で知事に期待されるリーダーシップとは?

2019年11月07日(木)16時30分

台風15号の暴風災害は千葉県に甚大な被害をもたらした(写真は東京都江戸川区で台風15号の暴風で飛ばされた看板、9月9日) Kiyoshi Takenaka-REUTERS

<「国に依存し、国に期待する」という姿勢では、いま必要とされる地域密着の防災体制は実現しない>

台風15号、19号、21号と複数の台風によって千葉県では大きな被害が出ています。そんな中で、森田知事の対応の遅れが批判されていますが、今度は森田知事が15号の被害対策にあたらず、県の東北部にある自分自身の別荘に公用車で訪れていた疑惑が報道されています。

この問題ですが、その別荘というのは芝山町にあるそうですから、15号の暴風では大きな被害が出たところです。冷静に考えれば、森田知事として自分も被災した可能性があるわけですから、さらに建物が崩壊したり火災を発生させたりといった二次災害を起こすリスクもある中で、状態確認をするのは義務であると思います。

また、仮にその物件が被災していた場合は、自分も被害を受けているのだと明かせば、被災者の1人としてリーダーシップを取ることもできるはずです。また、コミュニケーションが常に取れるように、またセキュリティー確保ということも含めると、私用だから公用車使用禁止というのはあまりに杓子定規な批判だと思います。

森田知事に対しては、15号の暴風被害の際に被害の実態把握に長い時間を要したという批判があります。ですが、これも館山市などで現場の要員不足、あるいは被害程度の判断をする専門家が不足する中で構造的に起きた問題だということが明らかになってきました。

「タレント知事」への期待

それでは、どうして森田知事には批判が浴びせられるのかというと、今回の被災県の中では唯一の「タレント知事」だからでしょう。つまり知名度があり、そのために千葉県でも、またより広域な範囲においても「知名度」を理由に期待感があるわけです。その期待が裏切られた感じがすると、余計に反発を食らうのです。

その期待というのは、知事が率先して防災対策や、被災した場合の復興にリーダーシップを発揮するということです。問題は、この点が日本の制度では曖昧になっているということです。

例えば、森田知事が21号による豪雨被害で10人の犠牲者を出した後で、会見で次のように述べているのが象徴的です。「またこんなことが起こったら大変だ。これをどうやって止めたらいいのか。国にはしっかりとした、根本的な指針を出していただきたい。県も指導を受けながら頑張っていきたい」(AmebaTVの電子版記事による)つまり、県というのは国の下位にあり、まとまった予算も国に握られているという認識です。森田知事は、知事になる前には参院議員をやっていましたから、このヒエラルキーには敏感なのでしょう。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、停戦違反を非難 イラン以上にイスラエル

ワールド

ガザの食料「兵器化」、戦争犯罪に該当 国連が主張

ワールド

ドイツ、25年度予算案を閣議了承 投資と利払い急増

ビジネス

独IFO業況指数、6月は予想以上に上昇 景気底入れ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり得ない!」と投稿された写真にSNSで怒り爆発
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    細道しか歩かない...10歳ダックスの「こだわり散歩」…
  • 6
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 7
    EU、医療機器入札から中国企業を排除へ...「国際調達…
  • 8
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 9
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 10
    「水面付近に大群」「1匹でもパニックなのに...」カ…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 8
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 9
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 10
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story