コラム

英語民間試験、萩生田発言は問題外だが、実施先延ばしも問題外

2019年10月31日(木)17時20分

受験生に「身の丈に合わせて頑張って」と言い放った萩生田文科相の発言は確かに問題だが Issei Kato-REUTERS

<日本の国際化を妨げ、経済停滞を招いた英語教育を「使える英語教育」へと変える――その改革にもう猶予はない>

大学受験の英語力判定において、2020年度から民間試験を導入する問題ですが、萩生田光一文科相の「身の丈に合った......」という発言が「炎上」する中で、野党や高校の現場などから「実施の延期」を主張する声が上がっています。

確かに、大学受験において高額の受験料が発生するというのは問題で、そのために「格差の世襲」が続くようでは、日本社会の活力はさらに衰退してしまうでしょう。一刻も早い是正が必要です。

具体的には、
▼本命のくせに法外な(一回約2万5000円)受験料を取っているTOEFLなどの価格を強い行政指導で下げさせる。
▼世帯年収に応じて受験料の減免を行う。
▼地方など受験生の少ない場所での実施には補助金を出す。

といった緊急措置が必要だと思います。これは待ったなしで策を講じなければならないでしょう。ちなみに、大学出願に必要な学力検査の受験料の減免ということでは、アメリカの場合、4人家族の年間世帯年収が約4万7000ドル以下であれば減免が、3万3000ドル以下なら無償化の対象となっています。

どうして待ったなしなのか、それは実施の先送りは許されないからです。英語というのは、学界やビジネス界では事実上の世界共通語になっています。その一方で、日本の英語教育は、誤った文法メソッドや翻訳メソッドで、言語ではなく単なる暗号解読と暗記を多くの日本人に強いてきました。

その結果として、英語教育が無力感と劣等感を植え付けてきたのです。英語教育の遅れが国際化を妨害し、日本経済をここまでボロボロにしたのです。その英語教育を「使える英語教育」に変革する、この改革に猶予はありません。そのための入試改革は、すでに遅過ぎるぐらいであり、1年の延期も許されません。

それにしても、アベノミクスの第三の矢が発動できずに、先進国から滑り落ちそうになっている政権に対抗するべき野党が、どうしてこうした改革に反対するのでしょうか?

スマートシティ構想もそうで、何もしないで傍観していれば、中国やシンガポールがどんど5G(第五世代移動体通信)やそれを使った自動運転を実現する都市インフラの実験で先行し、日本の自動車産業や情報通信産業は研究開発も含めて一層の空洞化が進み、国内では雲散霧消してしまうかもしれないのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

GM、通期利益予想引き下げ 関税の影響最大50億ド

ビジネス

米、エアフォースワン暫定機の年内納入希望 L3ハリ

ビジネス

テスラ自動車販売台数、4月も仏・デンマークで大幅減

ワールド

英住宅ローン融資、3月は4年ぶり大幅増 優遇税制の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story