コラム

スキャンダル芸能人やバイトテロに、無限の賠償責任はあるのか?

2019年03月05日(火)16時15分

考えてみれば、企業の取締役の場合、社外取締役などの場合は「責任限定契約」が可能ですし、社内取締役の場合も「役員賠償責任保険」がありますから、無限に責任を負わされるわけではありません。それなのに、バイトには無限に賠償責任を負わせるというのはバランスを欠くと思います。

無限責任ということでは、芸能人がスキャンダルを起こした場合に、映像作品やCMがキャンセルされ、その損害について何億という金額が請求されるということにも、違和感があります。

請求しているのは広告主企業であり、そのダメージは外食チェーンの「バイトテロ」と比較するともっと曖昧です。ある女優が会社のイメージ広告に出ていたとして、その女優に不倫疑惑が持ち上がったとします。もちろん、そこでCMに対してクレームを言うのが趣味の人もいるでしょう。ですが、多くの視聴者は傷ついた女優のイメージと、企業のイメージを混同するような愚かなことはしないでしょう。

そこで多額の金額を請求されるというのは、いくら契約書に書いてあるからと言っても、そもそもその契約自体が有効であるかも不明です。仮に、役者というのが個人事業主だとしても、その売り上げの範囲を超えた賠償責任を負わされるとか、そのリスクを回避するための保険もないというのは問題だと思います。

性犯罪のような悪質な犯罪の場合はまた別です。ですが、その場合でも芸能人の支払い能力は被害者への補償が最優先だと考えると、やはり巨額の賠償請求がCMの広告主から来ることには違和感を覚えます。

過失や反社会的行為により損害を生じた場合、その損害を弁済するのは社会の構成員として当然です。ですが、権力と経済力のある法人が、権力も経済力も限られる個人に対して無限の責任を負わせるというのは、法体系として何らかの歯止めが必要だと思います。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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