コラム

トランプ外交をトーンダウンさせる、アメリカ国内の3つの問題

2019年02月21日(木)16時00分

この問題ですが、何よりも「トランプ=プーチン」の親密な関係に対して、世論の多くが疑いを抱き始めています。また、マケイブ告発の中では、大統領が「北朝鮮の核武装の進展度合いについて、米国の諜報機関の報告よりも、プーチンの入れ知恵を信じた」という点が、政界の相当数から問題視されています。

ということは、大統領としては、外交を通じて「そうではない」ことを証明していかなくてはなりません。つまり、自分は「アメリカの諜報機関より他国の独裁者を信じることはない」し、「一対一の取引で米国に不利な外交へと引きずられるという印象は避けたい」という縛りの中にいると指摘できます。

3点目は、政権の陣容が不完全ということです。まず、国防長官についてはマティス前長官を更迭した後は、空席になっています。またヘイリー国連大使の辞任後、後任に指名したテレビキャスター出身のナウアート氏も辞退してしまっています。ということは、国防総省と相談し、また国連を通じて同盟国や、世界の主要国と協調しながらの外交を推進する体制にはなっていないということです。

そんな条件下で外交が進むわけですが、まず、中国との交渉に関しては、1年以上にわたって、この問題で株式市場が神経質な反応を示してきました。ですから、いくら中国に対する過激なまでの厳しい態度を政治的パフォーマンスにしたくても、それで株価が暴落してはマズいわけです。そうなると、できることは限られます。ある程度穏便な解決、あるいは問題の先送りということになる可能性が大きいと思います。

一方の北朝鮮外交についても、例えば朝鮮戦争の終結だとか、在韓米軍の引き上げといった「過激な」判断をして、その見返りに「非核化スケジュールの前倒し」を狙うような大胆な外交は難しくなっていると思われます。そのようにリスクの大きい判断を下して、結果が伴わなければ選挙戦で不利になるからです。一方で、完全に関係が壊れてしまっては、やはり株価下落などが怖いわけで、こちらも無難な内容にして問題を先送る可能性が一番高いのではないかと思われます。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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