コラム

沖縄の玉城デニー新県政と、辺野古問題の県民投票のゆくえ

2018年10月03日(水)11時00分

問題は、一方の当事者であるアメリカが、現在はトランプ政権だということです。仮に、そのトランプ大統領本人が、この辺野古をめぐる対立に興味を持って首を突っ込んできたらという懸念です。というのは、仮にこのまま対立が激化した場合、トランプ的な発想からは、「守ってやっているのに、それがイヤだというのなら、サッサと出て行ってやる」という話になりかねなません。いや、本当にトランプ的な思考回路からすれば、そういう話になる危険性は十分にあります。

ということは、(1)のつもりが代替地が見つからない場合、あるいは(4)を強く主張した場合などに、トランプ政権が「大いに結構」だとして、例えばですが通商交渉などに絡めて攻勢に出てくるかもしれません。(3)の自主防衛化の気配などを察知したら、ついでに武器を沢山売ろうとするかもしれません。

いやいや、トランプ政権はこの11月の中間選挙で敗北したら、弾劾される可能性もあるかもしれないので、そのリスクは少ないという見方もあるかもしれません。それ以前の問題として、そもそも在沖米軍の配置というのは、中長期的な米軍の再編計画や、東アジアの外交に関係するわけで、トランプ的な「思いつき」を過大評価すべきではないという考え方もあります。

ですが、一つの大きな流れとして、アメリカの世界戦力において「不関与、不介入」という姿勢は、トランプ政治を超えた潮流として存在するのも事実です。例えば、仮にトランプ政権が弱体化して、アメリカの民主党が勢力を拡大するとして、現在の民主党は、オバマやクリントン夫妻の時代の民主党でありません。

どちらかと言えば、現在の民主党では、サンダース派などの「左派」が非常に強くなっているのですが、彼らの発想法というのは、「イラク・アフガン戦争の否定」であり、世界の警察官から降りたいとう点では、トランプ主義に似ているのです。言い方が左派的な「国際協調」とか「平和」という語彙を使った言い方になっているだけで、冷戦的な対立を維持しつつアメリカが世界で影響力を行使することに「興味はない」のです。

ですから、トランプが失脚しても、あるいは民主党に政権が移っても、自動的にアメリカの軍事外交政策が「世界の警察官」に戻る保証はありません。中長期的に、在沖米軍のプレゼンスが縮小されていき、台湾海峡で米中が対峙しつつバランスを取るという現状が変わっていく可能性は十分にあると思います。

そうした変化は、時として不安定を生み、最悪の場合には紛争の契機ともなりかねません。ですが、変化を通じて地域が安定し、軍縮に伴う平和が確立する可能性も十分にあります。そうした前向きの変化を実現するために一番大切なのは、沖縄県民の世論について日本政府がより丁寧に耳を傾けていくということでしょう。

その意味で、沖縄県政が玉城新知事に代わり、東京では岩屋新防衛大臣が就任した中で、より丁寧で建設的なコミュニケーションが始まることを期待したいと思います。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

高市首相「首脳外交の基礎固めになった」、外交日程終

ワールド

アングル:米政界の私的チャット流出、トランプ氏の言

ワールド

再送-カナダはヘビー級国家、オンタリオ州首相 ブル

ワールド

北朝鮮、非核化は「夢物語」と反発 中韓首脳会談控え
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 7
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 8
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 9
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 10
    【ロシア】本当に「時代遅れの兵器」か?「冷戦の亡…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 10
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story