コラム

西日本豪雨の腰の引けた災害報道は、見直す時ではないか

2018年07月10日(火)16時15分

災害報道で得られる情報が断片的で全体像がつかめない(写真は倉敷市真備町、9日) Issei Kato-REUTERS

<西日本豪雨では被害の中心が中国・四国だったため、全国ネット、全国紙の報道の現場感覚が希薄に見える。ローカル局、支局を前面に出したリアリティある災害報道を目指すべき>

今回の西日本における豪雨で被害に遭われた皆さまに、お見舞いを申し上げます。

雨が止み、水が引いたとはいえ、復旧どころか安否不明の方の捜索も進まない厳しい状況が続いていると思いますが、今後のことを考えると、現時点でこうした甚大な自然災害における報道について見直しをする必要があるのではないかと思います。

1つは、情報量が圧倒的に少ないということです。従来でしたら、府県別の不明者数や死者数は常にテレビ各局も新聞社も集計して発表し、時々刻々と更新していたように思います。その数字と、そして数字が動くことで、全国に被害の深刻さが伝わり、今後の治水対策などの論議に役立つことを思うと、今回の災害では、そうした数字の把握が追いついていないようです。

数字だけではありません。とにかく現場の情報が断片的です。各社が取材に入っていますが、その情報はピンポイント的で、網羅的な全体像がつかめるような報道がありません。数字が分からないということもありますが、各府県の首長ないし災害対策の責任者が行なっている会見などがテレビ中継や動画として浸透していないということもあると思います。

もしかしたら、全国的な重要度がある会見でも、地域の記者クラブ会員しか取材できないなどという硬直した体制があるのかもしれません。とにかく全国の世論に対して訴える必要のある局面では、そうしたタブーは解除すべきでしょう。

2点目は、現場取材を恐れないでいただきたいということです。一時期、災害時の取材活動に関して、「救助の邪魔だ」と言って批判が高まったことがありました。確かに行き過ぎはあったかもしれませんが、現在は、どう考えても各メディアには「萎縮」が見られると思います。

と言いますか、最初は「萎縮」があって、次にはコスト削減、さらには「働き方改革」という話が乗っかって、厳しい現場取材ができなくなっているのではないでしょうか。ですが、世界各国どこでもそうですが、甚大な自然災害については、できるだけリアリティのある報道をすることは、防災意識を高め、災害の再発防止のために必要なことです。その意味で、今回の西日本豪雨と、これに続く土砂災害、洪水災害に関する報道は、あらためて各メディアとして力を入れ直すことが必要でしょう。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、日本渡航に再警告 「侮辱や暴行で複数の負傷報

ワールド

米ロ高官のウ和平案協議の内容漏えいか、ロシア「交渉

ビジネス

米新規失業保険申請、6000件減の21.6万件 低

ワールド

サルコジ元大統領の有罪確定、仏最高裁 選挙資金違法
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 5
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 6
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 7
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 8
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 9
    「世界の砂浜の半分」が今世紀末までに消える...ビー…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 6
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 7
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 8
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story